ごりごり
「…」
ごりごりごり
「……」
ごりごりごり、ごり
「………っ」

その場の空気に耐えられなくなって、薬研を動かしていた手を止める。
そして軽くため息をつきながら、自分をじぃっと見つめる後輩の顔を見つめ返した。
出来るだけ視界に入れないように、気にしないように、そう考えながら作業を進めていたもののやはり気になるものは気になる。

「えーと、七松君?」
「小平太!」
「小平太君」

改めて名前を呼びなおすと、小平太君はぱぁっと破顔して、「何々?」とでも言うように顔を近づけてきた。

「小平太君は、薬とかに興味あるの?」
「全然!」
「え、そうなの?」

元気一杯に否定されて、目を丸くする。
ここ最近というもの毎日のように薬を研ぐ私の所に来てはその作業を間近で見ているから、てっきり興味があるのかと思っていたのに。

「好きだったりするんじゃないの?」
「私はどちらかといえば走ったりするほうが好きだ!」
「あぁ、小平太君はそっちの方がらしいよね」

実際、時々見かける小平太君は走り回ったりしていることが多いし、そのほうが性にあっているのだろう。

「えーっと、…ならどうして?」
「…迷惑?」 「ぜっ、全然迷惑とかじゃないよ! ただ、楽しいのかなって思っただけで」

しょぼんとしてしまった小平太君に慌てて首を振る。
まぁ、見つめられ続けるのはなんとなく居心地が悪いけれど迷惑というわけではない。
それに、薬を研ぐのはなかなか孤独で単調な作業だから誰かが傍にいるとそれだけでもほっとするし。
そのことを伝えれば小平太君の顔は再び笑顔で満たされる。
本当に表情がくるくるとよく変わって、なんだか面白いなぁ、なんて考えていたら小平太君は笑顔のままで
「薬に興味はないけど、先輩が薬を研いでるところが好きなんだ!」
と言った。

「え?」
「それで、先輩が好きだから、先輩のこと見てるだけで楽しい!」

何の臆面も無く言い切られては逆にこちらが恥ずかしくなってくる。
ただ、好きと言われて嫌な気分はしないもので。

「先輩は、私と一緒にいるの楽しくない?」

そう聞いてくる小平太君の顔はとても不安そうだったけれど、
「ううん、私も楽しいよ」
と返せば小平太君は今日見た中で一番の笑顔を見せてくれた。



(花が綻ぶように)