「名前ちゃん!」

声をかけられたほうを見上げれば、木の葉の緑の中にきらきらとした金色が見えた。

「タカ丸!!」
「久しぶりー」
「久しぶり…って、何してるのそんなとこで」
「木登りの練習をしようと思って」
「へぇ…」

いつもへらへらしてて何も考えてないように見えるが、タカ丸はタカ丸なりに忍術の経験が無いことを気にしているらしい。
その前向きな姿勢に名前は感動した。
自分だったら早々に諦めているに違いない。

「えらいじゃん」

素直に感想を洩らせばタカ丸は「そうかなぁ?」なんていいながらも照れくさそうに笑う。

「名前ちゃんは何してるの?」
「私? 私はこれから図書室に行こうと思って」
「図書室? なんで?」
「宿題の資料探し。……タカ丸、話すなら降りてこない?」

タカ丸が登っている木は忍術学園でもかなりの高さを誇る。
そのために、名前はめいいっぱいに見上げなければならず、実際首がもう悲鳴を上げていた。
けれど、タカ丸は名前の提案に曖昧にも笑うばかりだ。
どうしたんだろう、と考えて、名前は一つの予想に行き当たった。

「……まさかとは思うけど」
「えーと…、な、何?」
「降りられないとか、言わないわよね?」

タカ丸の笑顔が、ぴくりと引きつった。
それを見て名前は確信する。

「っ、あんたねぇ、登れたって降りられなきゃ意味ないのよ!?」
「だ、だってこんな高いと思わなくて…」
「あーもう! 仕方ないわね、受け止めるから飛びお、」

りてきて、といいそうになって、名前は重大な事実に気がついた。
忍術のスキルは1年生…いや、一般人並とはいってもタカ丸はれっきとした15歳。
その体格ははるかに名前よりも大きい。
受け止めるのは絶対に無理だ。こっちが潰れてしまう。

「いや、まって今の無し!!」

そう判断した名前はさっきの発言を撤回したが、時既に遅し。
タカ丸は名前に向かって飛び降りていた。
避けることもできず、モロにダイブを喰らって名前はタカ丸と共に地面に倒れこむ。
ぐえ、といううめき声が喉から漏れた。

「わっ!? 名前ちゃん、大丈夫!?」
「……心配するなら早く退いて………!!」

必死の思いで腹から声を絞り出すと、タカ丸は現在の自分の状況に気付いて慌てて名前の上からどいた。

「……圧死するかと思った……」
「本当にごめんね…!」
「いや、うっかり口を滑らした私も悪いんだけどさー…」

もう少し考えて行動しようよ…と不満を洩らすと、タカ丸は申し訳無さそうにしゅんとなった。
その姿に名前の良心がちくちくと痛む。
…なんだかこれじゃ私が苛めてるみたいじゃないか…!!
はぁ、とため息をつくとさらにタカ丸は縮こまる。
名前はその頭をぱしんと軽くはたいた。

「ほら、しゃきっとしなさいしゃきっと! 木登り、降りるところまでちゃんと教えてあげるから」
「え…? でも図書室は?」
「どうせ、こんなに服汚れてたら図書室に入った時点で長次に殺されるし。
もしまた降りられなくなって巻き込まれたら堪らないしね」
「わぁ…! ありがとう名前ちゃん!」
「(うっ・・・!!)」

至近距離でタカ丸の満面の笑みを見て、名前は不覚にもちょっとときめいてしまう。
赤くなってしまったかもしれない頬を、悟られないようにぱしんと叩いて気合を入れた。



(なんとかと煙は、)(高いところがお好き?)



「ほらっ、そうと決まれば早速始めるわよ。言っとくけど私スパルタだからね?」
「えぇー!?」
「えー、じゃない! 最終目標は裏々山にあるでっかい杉の木を登ることだからそのつもりで!」
「それは無理だって!」
「無理でもやるのが忍者なの!」
「えええええ!?(折角二人っきりなのに全然雰囲気が甘くない!)」