「本っ当にごめん!」
「……」
「俺が悪かったから、機嫌直してくれないか?」
「うるさいわね。私に構ってる暇があるなら、大っっっ好きな豆腐に向かって愛でも叫んでれば?」
「名前〜〜っ!」
「ふんっ」

尚も追いすがろうとする兵助を「近づかないでくれない?この変態」と切り捨てて、名前はその場から去っていってしまった。
黒い雲を背負いながらその場に崩れ落ちる兵助に誰も声をかけるものはいない。

「…あいつらどうしたんだ?」

そんな光景を少しはなれたところで見守っていた三郎と雷蔵に、たった今来たばかりの八左ヱ門が不思議そうに声をかけた。

「あれ?ハチは知らないの?」
「何を?」
「あの二人、この前食堂で大喧嘩したんだよ」


「喧嘩?」
「うん。喧嘩っていうか、名前ちゃんが兵助に対して怒ったんだけど」
「そりゃまた、」

あいつらにしてはめずらしいな、と八左ヱ門は呟いた。
それほどまでに名前と兵助の仲の良さは周知の事実だった。

「で、原因は?」

その言葉に、三郎がにやりと笑う。

「ハチ。我らが兵助君の短所といえば?」
「…豆腐?」
「いや豆腐もそうだけど。そうじゃなくて、ヘタレなところだろう!」
「あぁ」
「聞こえてるぞそこ!」

妙に納得してしまった八左ヱ門に、打ちひしがれながらも今までの会話を聞いていたらしい兵助からのツッコミが飛ぶ。
そんな兵助を無視して3人は話を続けた。

「で、ヘタレの兵助君が一体なにしたんだ?」
「兵助があまりにも豆腐豆腐って言うから、名前が豆腐と私とどっちが好きなの?って聞いたらしい」

わざわざ名前の声真似をしているあたり才能の無駄遣いと言うべきか。

「その後の展開は多分ハチの予想通りなんだけど、」
「…雷蔵、みなまで言ってやるな」

そしてその肩をぽん、と優しく叩く。

「まぁ、その、なんていうか……元気だせって!」
「なんか余計悲しいんだけど」

じと目で見られて、八左ヱ門は一瞬怯んだもののすぐに気を取り直した。

「元はといえば兵助が悪いんだし?」
「だって本人の前で好きだとか言えるわけないだろ!」
「力説するなよ」
「しかも本人の前で言わなくてどこで言うのさ」

三郎と雷蔵のするどい指摘に、兵助はがっくりと肩を落とす。

「それで、最終的に兵助は名前ちゃんと豆腐と、どっちが好きなの?」
「そりゃ名前の方に決まってるだろ!」
「……だってさ、名前ちゃん」
「え…?」
「………」

雷蔵の言葉に、兵助が慌てて振り返ると、そこには名前が立っていた。
依然として表情は不機嫌そうだが、それでも頬は少しだけ赤く染まっている。

「あ、あの!名前!俺、」
「……兵助の気持ちは、良く分かった」
「名前…」
「それぐらい面と向かって言いなさいよねバカ!!」
「ご、ごめん…!!」
「もう、そんな兵助が大好きだこのやろう!」
「! 俺も、名前が、好きだ!」
「兵助っ!」
「名前っ!」

うふふあははと二人の世界を築き始めた兵助と名前を尻目に、残された3人ははぁ…と重いため息をついた。



(ここは深海3000メートル)



「僕もう帰っていいかな」
「俺、もし恋人作るとしてもああいうのはいいや」
「同感」