「はい、文次郎!」
「なんだこれ」

笑顔と共に差し出されたものを見て、俺は思わずそう聞き返してしまった。

「何って、見て分からない? 団子よ団子。食堂のおばちゃんから貰ったの」
「いや、それぐらいは見りゃ分かるけどよ……なんで突然?」
「いいからいいから。食べてよ。ね?」

ぐいぐいと団子の入った皿を押し付けられ、無理やり受け取らされる。
まさか毒でも入ってるんじゃねぇだろうな?と聞けば、そんなもの入れるわけ無いじゃん!と返された。
まぁ、こいつはそういう小細工よりもすぐ特攻するタイプだが、腐ってもくノ一だ。何するかわかったもんじゃない。
警戒して団子を口に運ばずにいると、とうとうしびれを切らしたのか串を一本掴むと無理やり口に押し込んできた。

「ぐっ…!? 何しやがる!」
「あんたが何時までたっても食べないからでしょ!
別に何も盛ってないっつーの!」

言われたとおり別に身体はしびれたりもしてないし妙な眠気に襲われたりもしていない。
少し意識しすぎたかと思ったが、こと食物に関しては忍者は警戒し足りないことはあってもしすぎることは無いはずだ。

「それと会計委員の決算、まだ終わってないんでしょ? 三木ヱ門から聞いた」
「ああ」
「それ、私手伝ってあげるよ。こう見えて算盤得意だし」
「そりゃありがてぇが……今さっきの団子と言い、一体何が狙いだ?」
「ちょ、狙いって…。
別にそうじゃなくて、いつも大変そうな文次郎を少しでもいたわってあげようという私の善意をだね…!」

なんて偉そうに言ってるが、こいつは場を引っ掻き回すだけ引っ掻き回してふらっとどこかに行くような奴で。
そこに俺を労わろうなんて気持ちはひとかけらも存在していない。
そんな奴が突然ころりと態度を変えてきたら誰だって警戒するに決まってんだろ。

「ほら、さっさと吐きやがれ」
「だーかーら、別にそんな何も無いって」
「そういいながらさっきから目が泳いでるぞ」
「文次郎のきのせいだって! ほらまだ団子残ってるからお食べ!」

皿に残っていた団子3本を一気に口に詰め込まれ、一瞬怯んだ隙に名前は「じゃ!」と言って走り去ってしまっていた。
俺としたことが…!目前に居た敵を逃がすなんて…!!
一人自分の未熟さを悔やんでいるとそこに通りがかった仙蔵が俺を見て不思議そうな表情で近づいてきた。

「文次郎、その団子はどうしたんだ?」
「いや、名前が突然やるっつって持ってきたんだよ」
「? なぜ突然」
「さぁ? 俺にも良くわかんねぇんだが、他にもなんか妙に親切でとにかく気味が悪かった」
「ふぅん…?」

顎に手を当てて何事か考えていた仙蔵が、ふいに「くっ」という笑い声をもらす。

「どうしたんだ仙蔵」
「いや、なぜ名前が突然お前に親切になったのか、その理由が分かったぞ」
「そうなのか!?」
「ああ。今日は何の日か考えてみろ」

今日は何の日か、そう言われて今日の日付を思い出す。
今日は9月15日、確か第三月曜日だ。といえば、思いつくのは唯一つ。

「っ、名前のやつ…!!」
「はははっ、良かったじゃないか文次郎。今日は充分労わってもらうが良い」
「うるせぇ!! くそ、どこ行きやがった!」

叫んだ声はあたりにむなしく響くだけだった。



(物事には必ず隠された真実があるんです)



「それにしても名前も上手いこと考えたものだな。」
「感心してんじゃねぇ!」