陽の光も、月の明かりも、四方を壁に囲まれたここでは決して届かない。時間の感覚は曖昧で、ノボリとクダリのどちらかが毎回律儀に持ってくる食事のおかげでかろうじて一日を数えることはできた。だからといって何の役にも立ちはしないが。
かわるがわる訪れる双子は、そのたびに好き勝手に名前の身体を舐めて、噛んで、至る所に痕をつけては自分を選べと懇願する。事実、どちらかを選べば少なくとも、今のこの状況からは抜け出せるのだろう。行動こそ制限はされていないものの、じゃらりとなる鎖の先に繋がれた首輪を嵌められこんなコンクリートに囲まれた部屋で、一日眠るように転がっているだけのこの生活は今にも気が狂いそうだ。けれど、だからといってどちらを選べば良いというのか。抑々、名前はノボリにもクダリにも、特別な感情を抱いたことなど終ぞなかった。というのに、突然拉致監禁され、一方的な愛を注がれても、嫌悪感が湧きこそすれ愛など微塵も感じようがない。適当にどちらかを選んだとしても、一般人の名前にこの二人の愛情は重すぎて、抱えきれなくなることは目に見えている。だからこそ、どちらも選べず、ただただ口を噤んで耐える道しか名前には残されてはいなかった。
不意に、コンクリートの一角がぽかりと口を開け、逆光で照らされた人影が目に入った。ああ、また悪夢のような時間がはじまるのか。何も考えず、何も感じず、目を瞑り早く時間が過ぎ去るのを待ち続けるだけの生産性のないこの行為は、一体いつまで続くのか、名前がそれを知る由などないが、ただ一つだけ確実に分かっているのは「もう解放してほしい」という名前の一番の願いはどうにも叶えられそうにないということだけだった。