がぶり、柔らかな腹に噛みつくと名前の喉から押し殺した悲鳴が漏れた。
それを無視して、感触を楽しむようにがじがじと、何度も何度もその肉へ歯を立てる。思う存分感触を楽しんでから、白い肌に赤く残った歯形を見てにっこりほほ笑む。ああ、これも綺麗に残ってくれた。
次はどこにつけようか、名前の身体中に残った鬱血痕と、その上からつけた歯形を眺めて、まだ上書きしていない場所を探す。二の腕の内側にそれを見つけて、笑みを深くした。決して傷はつけないように、でも痕はきっちりつくように。この力加減というのが意外と難しい。強く噛みついてしまえば肌が切れてしまうし、かと言って力が弱ければ痕はすぐに消えてしまう。
堅い場所ならばある程度力を入れて噛んでもそう簡単には切れないと分かっているが、こんなにも柔らかい肉だとちょっとでも気を抜けばぶちりと噛み切ってしまいそうで、それを想像すると恐怖からか興奮からか判然としないぞくぞくとした感覚が背筋を走った。ごくり、喉を鳴らしてさきほどより少しだけ噛む力を強めてみる。もう少しだけ、あとちょっとだけ、自分に言い訳でもするようにじわじわと食い込ませていく歯がとうとう、ぶつ、と皮膚を破った感覚とともに「っひ」と殺しきれなかった悲鳴が聞こえ、慌てて口を離した。

「いたかった…よね?ごめんね、ちょっとやりすぎちゃった」

じわ、と溢れ出した血を着ていた白いシャツで乱暴に拭う。滲んだ赤に困った顔をして、「ノボリにバレたら怒られちゃうかな」ぽそりと小さく零した。

「これ、ノボリには内緒ね?じゃないとぼくまた暫く出入り禁止にされちゃう!」

無邪気な顔でお願いされて、名前はこくこくと頷くしかなかった。そもそもこの状況で首を振るなんてことできるわけもなく、それを知っていて問いかけているのだからクダリも大概人が悪い。恐怖の色が滲む瞳を覗き込むと自身のひどく歪んだ笑みが映りこんでいて、クダリはくつくつと喉の奥から込み上げる笑い声を抑えることなく吐き出した。

「ねぇ、名前はやっぱりぼくよりノボリの方が好きなんでしょ?ノボリは、ぼくみたいに痛いことなんてしないもんね?でもね、ぼくはただ、きみはぼくのものだって、そういう証をつけたいだけ。そしたら、きみがどこにいっても安心!だから、ぼくを選んでくれたらすぐにでもここから出してあげるよ?今より痛いことはしないって約束するから、ぼくを、選んでくれるよね?」