ノボリとクダリ。この美人な双子は私の大事な親友だ。
少々、いやかなりスキンシップが過剰気味ではあるけれど、聞けば今まであまり仲の良い友達が居なかったというのだから、ただたんに少しだけ距離の取り方が分からないだけで二人に悪気はないのだろう。元々イッシュの人は私の出身のカントーの人に比べるとスキンシップが激しいと聞くし。
その証拠に、外で抱きつかれたりするのは少し恥ずかしいと言えば、外では控えめにしてくれるようにはなってくれた。
とはいえ、その代わりとでもいうように二人の家にお呼ばれされてそこでべたべたとくっつかれるようにもなったのだけども。
今だってそうだ。ソファーには十分なスペースがあるというのに、なぜか私はクダリの膝の上に座っていて、ノボリはその足元へ座り込んでぐにぐにと私のふくらはぎのあたりを揉んでいる。
何をしているのと聞くとこともなげに「マッサージです」と返されて、私は返す言葉を失った。
なんでマッサージ…とは聞かない。きっともっともらしい理由を言われて黙るしかないという結果が見えているから。
大丈夫、二人はスキンシップ過多なだけでこの行動にも他意なんてない、大丈夫、大丈夫…自分にそう言い聞かせているともぞりと背後でクダリが動いた。

「ひゃあ!?」

突然、かぷりとクダリに耳を噛まれ、思わず変な声が出る。
くすくす、耳元でクダリの吐息をダイレクトに感じてしまう。
そして私がクダリに気を取られているその隙に、するするとノボリの手はふくらはぎから這い上がって太腿を撫でまわす。
もはやマッサージとは全く関係のない動きに、制止しようと動かした腕は簡単にノボリの空いた手に絡め取られてしまった。
ぎし、とソファーが悲鳴を上げる。ノボリが片足をソファーに乗り上げ、私たちを跨ぐようにして前を塞いだ。
前も後ろもはさまれて、これでは逃げられない。今更ながらに危機感を覚え始めて、私は慌てた。

「ちょ…っと、二人とも、何してるの」
「ん?ただのスキンシップ」
「女性同士なのですから、これぐらいは普通でしょう?」
「そうそう、普通だよね?」

二人の香水の匂いと甘ったるいこの部屋の雰囲気に酔ってしまいそうだ。
こんなの普通じゃない、冷静な頭ではそう思うのに二人からステレオで囁かれると私の方が間違っているような気すらしてしまう。
太腿を這う手から、耳を擽る吐息から、ぞくぞくとする感覚を感じ取って変な気分になっている私だけがおかしいのだと、まるで責められているようで、私は口を噤むしかなかった。
耐えるようにソファーの表面に爪を立てた手を、クダリが掬い取る。
私の右手にはノボリの右手、私の左手にはクダリの左手。これで両手の自由すらなくなってしまった。

「緊張しているのですか?」

私の指を口に含み、やわやわと甘噛みしながらノボリがつぶやいた。

「それとも恥ずかしい?」

まるで慈しむかのように私の頭をなでながら、クダリが問いかけた。
そのどちらにも答えようと、私は夢中でこくこくと頷く。

「そっか。名前かわいい」
「大丈夫ですよ。わたくしたちは親友なのですから、なにもおかしくなんてありません」

小さな子供に言い聞かせるときと同じ声音でノボリが囁いた。妙に説得力のあるその声に思考が流される。

「ね、見えるから恥ずかしい。だったら、こうやったら大丈夫でしょ!」

私の目を、クダリの手が覆う。視覚も、自由も、正常な思考も、すべてこの二人に奪われた。
指を食まれ、耳を食まれ、このまま二人に食べつくされてしまうんじゃないか。ぼうっとした頭でそんな馬鹿げたことを考える。

「お慕いしております」
「好きだよ」

もう二人のことしか考えられない頭では、その言葉が真に意味するのは友情なのか愛情なのかなんて分かるはずもない。



(思考剥奪)