「侑斗をよろしく!」

そんな言葉とともに差し出されたキャンディを受け取りながら、名前は「……はぁ…?」と曖昧な返事をするしかなかった。



(ハロー!スウィートボーイ!)



「へぇ。じゃあデネブは侑斗に憑いてるんだ?」
「あぁ!そうなんだ!」

にこりと屈託の無い笑顔で微笑まれて、名前もにこりと笑顔を返す。
商店街を歩いているときに、前方に侑斗の姿を見つけて親しげに声をかけるとなぜか妙に慌てられて。
その後冒頭の台詞とともに渡されたキャンディを受け取ったときは、
「いや、侑斗ってアンタじゃん。頭大丈夫なのか?」
とか思ったりしたのだけど、ただたんに侑斗にデネブが憑依していただけのようで。
侑斗とはミルクディッパーで何度か顔を合わせている(そのたびに嫌味を言われるのは私が嫌われているからなのかどうなのか)ものの、
デネブとは初見なので全く気がつかなかった。

「まぁ、言われて見れば、侑斗とは雰囲気が違うよね。なんかほんわかしてるかんじ」
「そ、そうか…? 照れるなぁ…」

そういって恥ずかしそうに頭を掻くしぐさが、普段とのギャップも相まってとても可愛く見える。
デンライナーにもこんな癒し系イマジンが欲しいなぁ、と思いながら、名前はデネブにもらったキャンディを口に入れる。
包み紙からして多分手作りであろうキャンディは、それでも市販のキャンディと比べても遜色のない味で。
ひそかに感心をしていると、デネブがこちらを窺うようにしてみていることに気がついた。
ん?と首をかしげると、デネブはわたわたと視線をはずす。

「なに? どうしたの、デネブ」
「い、いや、別に、なんでもないぞ! デネブキャンディが気になるとか、そんなことは全く無い!」
「つまり、キャンディの出来上がりが気になってるって事ね?」
「え!? な、なんで分かったんだ!?」
「読心術?」
「そ、そうなのか!? そんなことが出来るなんて、名前はすごいなぁ…!!」

なんでもないという割に、自分で気になることを喋ってしまっている(しかもそのことには気付いていない)のが面白くて、
からかってやろうと嘘をついたら、それを簡単に信じてしまったデネブ。
本気で感心しているデネブに対して少しの罪悪感が芽生えたけれど、今更撤回するのも微妙な気がして、名前はそのままにすることにした。

「で、これ、デネブキャンディっていうんだ? 手作りなの?」
「ああ、俺が作ってる」
「そっか。美味しいよ、これ。普通に売っててもおかしくないくらい」

率直な感想を言うと、デネブは嬉しそうに顔をほころばせる。

「それにしても、デネブ、飴も自分で作るんだ? 普段の料理も?」

デネブが持っていた買い物かごを見つめて言うと、勿論!という返事が返ってきた。

「デネブ、料理上手そうだよね。私も一回食べてみたいな」
「それなら、今日はゼロライナーに来るといい!」
「ほんと!? ……あー、でも良いの? 侑斗が文句言うんじゃない? 私侑斗に嫌われてるっぽいし」

思いがけない提案に、一瞬手放しで喜びそうになったけれど、ふと侑斗の嫌そうな表情が脳裏に浮かんで、デネブに尋ねる。
すると、間髪入れずに「そんなことはない!」という言葉が返ってきた。

「侑斗は名前を嫌ったりなんかしてない。絶対だ」
「でも私に対してかなり態度冷たいし。嫌味だし」
「侑斗が嫌な事をいうのは、照れているからなんだ」

断言口調で言って、デネブは突然私に向き直った。

「名前、お願いがあるんだ!」
「な、何…?」
「侑斗は素直じゃないから、これからも嫌な事を言われるかもしれない。けど、侑斗と仲良くしてやってくれないか?」

真剣な表情で「お願いだ!」と頭を下げるデネブ。
突然の展開に唖然としつつも、デネブの勢いに押される形で、名前はこくこくと頷いた。
途端に頭をあげたデネブは「ありがとう!」と連呼しながら名前の両手をがっしりと掴んで上下に振る。

「デネブ、ちょ、落ち着いてっ!」
「わわっ…! 名前ごめん! 大丈夫か? 痛くなかったか?」
「うん、大丈夫」
「そうか、よかった…! じゃあ、ゼロライナーに行こう!」

名前の片手を掴んだままでデネブは歩き出す。
手を握っていることに本人は気付いてないようで。
それを言えばまた慌てふためくんだろうな、と思いつつ。
楽しそうなデネブに水をさすのが可哀想だったので、名前はそのままにしておくことにした。


その後のゼロライナー車内
「おい、なんでお前がココにいるんだよ!?」
「デネブに招待されたの」
「俺が侑斗と仲良くなってもらおうと思って招待したんだ!」
「デーネーブー!!勝手なことすんな!!」
「うわっ! 侑斗、痛い!」
「おー…見事なコブラツイスト…」
「名前も感心してないで助けてくれ!!」