なんなんだ、この状況。
ベッドに寝ている自分の横で、ウラタロスがにこやかな顔を浮かべながら座っているのを見て名前はかすかに頭が痛むのを感じた。
そもそも、事の始まりは名前自身の不用意な一言にある。

「…あれ。名前ちゃん、顔色、悪くない？」
「ぁー、うん。最近眠れてないんだよ…」
「な、なにか、あったの？」
「夢見が悪くてさ。寝てもすぐ眼が覚めちゃうの」

ふぁ、と軽く欠伸をしながら言った名前の言葉に、返って来たのは良太郎であって良太郎ではない、声。

「へぇ…そうなんだ」
「ぇ、うん。どしたのウラ、突然出てきて。ってか良太郎は？」
「ちょっとやりたいことが出来たから、替わってもらったんだ」
「無理やり追い出したんでなく？」
「まさか、僕がそんなことすると思ってるの？」
「夜な夜な勝手に良太郎の身体を使っておいて何言ってるんだか」

呆れた風に言いながら、名前はまた欠伸をする。

「そーいえば、なんのために出てきたのさ」

ふと、もっともな疑問を口にする。その瞬間、ウラタロスの眼が細められた。

「眠れないんでしょ？　僕が寝かせてあげる」
「はぁ！？」

思いもよらなかった発言に、素っ頓狂な声をあげる名前。

「いや、あの、ウラ、私には状況が読めないんだけど」
「ほら、いーから、寝て？」

指差されたのは良太郎のベッド。躊躇する間もなく、ウラタロスに半ば強引にベッドに寝かされた。

「…なにがしたいのかが理解できないんだけど」
「名前ちゃんが眠るまで、僕が羊を数えててあげる」
「いや、そんなこと頼んでないから」

あまりにも恥ずかしいウラタロスの提案を拒否して、起き上がろうとする名前をウラタロスが制す。

「駄目だよ。ちゃんと寝ないと美容にも健康にも悪いんだから。僕にまかせて、……ね？」

見慣れている良太郎の顔とはいえ、イマジンが憑依をすると少しずつ印象が変わってくる。
意味もなく色気を振りまきながら言われた言葉に、名前の顔が赤くなった。

「……変なことしないでよ」
「変なことって？」
「…いや、うん、何かされたらハナさんに言うからいい」

諦めたようにベッドに寝転がって、眼を瞑る。
名前の眼が完全に閉じられたのを確認して、ウラタロスは羊を数えはじめた。

「羊が、１匹。羊が、２匹。羊が、３匹…」

静かな空間に、ウラタロスの声だけが響く。
昔から言われてるだけあって、羊を数える単調な声は眠りを誘うには最適で、次第に名前の頭も眠気でぼんやりとしてきた。
と、突然。

「もう寝ちゃった？」

ウラタロスが、名前の耳元で囁いた。
途端に今までの眠気が一気に覚めて、名前は飛び起きる。

「ちょ、ウラ！　今私せっかく寝かけたのに！　耳元で囁くな馬鹿！」
「本当に寝たのか確かめようとおもったんだけど」
「だけど、じゃない！　アンタは私を眠らせたいのか起こしておきたいのかどっちなの！」

顔を真っ赤にしながら喚く名前に、ウラタロスは苦笑しながらごめんね、と謝った。

「ほら、また数えてあげるから。眠って？」
「…耳元で囁くのは無し。オッケー？」
「はいはい、わかったよ」

ウラタロスの返答に、憮然とした表情をしながらも、名前はまた寝転ぶ。
名前が眼を閉じたのを見て、ウラタロスは再び羊を数え始めた。



(「おやすみなさい、いい夢を」)(君が悪夢にうなされないように、僕がずっとそばにいるよ)