「名前、僕と遊ぶよね? 答えは聞いてない!」
「リュウタ、ちょっと待っててね。あと3問だけだから」
「ヤダヤダヤダ! 僕は今遊びたいの!」
「そんなこと言ったって、ほんとあとちょっとだから……」

私の腕に絡み付いてくるリュウタの腕を引き剥がしながら、残りあと少しとなった数学の問題集に目を向ける。
あとはこれを与式に代入して…代入…だい……

「リュウタ! 手が邪魔で問題が見えない!」
「遊んでくれない名前が悪いんだ!」
「そんなこと言ったって、私は勉強するのが仕事なの!」

厳しい口調で言うと、リュウタは一層へそを曲げて、とうとう癇癪すら起こしだした。
ぎゃあぎゃあと騒ぐリュウタのせいで、まったく問題が進まない。

「ちょ、モモ!」
「あ? なんだよ」
「リュウタをどーにかして!」
「どーにかって…それは亀公の仕事だろうが」
「ちょっと先輩。僕に話を振らないでくれる? そーゆーのは先輩か金ちゃんの仕事でしょ」
「Zzz…」
「おら熊公! 寝てんじゃねぇ!!」
「責任の擦り付け合いはいいから、とにかく助けて…」

後ろからリュウタにのしかかられて、ハッキリ言ってかなり重い。

「リュウタ。名前ちゃんが潰れてるよ」
「名前は僕と遊ぶのー」
「後少し待ったら名前ちゃんも遊んでくれるって。ねぇ?」

見かねたウラが助け舟を出してくれたので、私はそれにコクコクと頷く。
まだ文句を言いつつも、リュウタは私から離れてくれた。

「絶対後で遊んでよ!」
「うん。分かってるって」

私がちゃんと頷いたのを確認して、リュウタはカウンターからクレヨンを取り出して、お絵かきを始める。
幾分か上機嫌な様子のリュウタを横目に、今まで止まっていたシャーペンを動かした。
問題自体は邪魔さえなければすらすら解けるようなもので、みるみるうちに空白は埋まっていく。

「なんだ、普通に解けるんだね」
「ま、リュウタさえ邪魔しなけりゃ、これぐらいは」
「邪魔されるって分かってるのに、どうしてわざわざデンライナーでするんだい?」
「私の部屋クーラーついてないからあっついんだもん。その点デンライナー冷暖房完備で快適」

ウラのもっともな質問にそう答えると、ウラは「本当にそれだけ?」という目でこちらを見てきた。
ウラにはなんでも見透かされているような気がして、時々ちょっと面白くない。
「いつから気付いてる?」と問うと「なんとなくは思ってたけど、確信したのは最近かな」という答えが返ってきた。

「まぁ、その、何? リュウタと遊ぶの、楽しいしさ」
「で、いつの間にか釣られてたわけだ」
「うるっさいなぁ! 別にいいでしょーが」
「別に僕は、何も悪いとは言ってないけど?」
「はいはい。ならこの話はこれで終わり! リュウター、終わったよー!!」

これ以上ウラと話すと色々余計なことを言われそうなので、強制的に話を終了させてリュウタに声をかける。
弾丸みたいにリュウタが飛びついてきて、勢い余って床に一緒に倒れこんだ。

「リュウタ! おーもーいー!」
「僕をほっといた名前が悪いんだからね! 何して遊ぶ?」
「その前に、どいて…!」
「えー、だって名前やわらかくてきもちいいんだもん」
「ぶっ…! リュウタ何言ってるの!?」
「だってほんとのことだよ?」
「ほんとのことでも、言っていいことと悪いことがあるの。っていうか、みんな見てないで助けて…!」

私がこんな苦しい思いをしてるというのに、モモはついていけないって感じでそっぽ向いてるし、
ウラはにやにやしてるし、キンちゃんは寝てるし、ナオミさんはなんか喜んでるし!
結局、私は帰ってきた良太郎とハナさんがリュウタを引っぺがしてくれるまでリュウタの下敷きになっていたのでした。



(少年少女、幸福論)

(あの薄情者たち、絶対許さない!)(そりゃ、抱きつかれて嬉しかったけどさ!)