実習で疲れた身体をひきずって、くのたま長屋の自分の部屋を目指す。
部屋の前に着いたとき、部屋の中から小さな喧騒が聞こえた。
よくよく聞けばその声の主は私の可愛い後輩である潮江文次郎と食満留三郎で。
一気に広がった悪寒に勢いよく襖を開けば、目に入ったのはこれでもかというほどに荒れた自室と、
こちらをみて取っ組み合ったまま固まっている文次郎と留三郎の姿だった。

「…これは一体どういうこと」

自分でも驚くほど冷たい声が口から漏れる。
その声音に私の確かな怒りを感じ取ったのか、目の前の小さな二つの体がびくりとはねた。

「「ごめんなさい」」

そう言って同時に頭垂れた二人に追い討ちをかけるように言葉を紡ぐ。

「私は謝罪の言葉なんて聞いてない。どうしてこうなったのか、理由をきいてるの。ねぇ、文次郎?」
「…」
「留三郎?」
「…」
「どうして言えないの? それとも二人が来たときにはもう私の部屋はこうなっていて犯人はほかにいるってこと?」
「…ち、ちが…」
「ならはっきり言いなさい。どうしてこうなったの?」

強い口調で問い詰めれば少しの間をおいてどちらともなく口を開いた。

「俺たち、先輩に新しく覚えた術を見て欲しくて」
「でも、4年のくのたまは今日は実習だって聞いたから」
「先輩、疲れて帰ってくると思って、だから布団をしこうとして」
「そしたら!こいつが俺がしくんだって張り合ってきて!」
「なにおう!俺が先にしこうとしたのにてめえが横取りしようとしたんだろうが!」
「ふざけんなよ食満!」
「やるか!?」
「やめなさいっ!!」

自分達が怒られていることすら忘れてヒートアップし始めた二人を一喝する。
するとようやく自分達の立場を思い出したのか、ふたりはまたしおしおと小さくなってしまった。
それにしても、この子たちは本当にすぐに張り合おうとするのだから。
とため息をつきつつも二人を怒る気持ちは既に霧散してしまっている。
結果はどうであれ、この子たちは良かれと思ってしようとしたことで、この反応を見るからに二人なりに反省はしているのだろう。
きっと。
畳に視線をおとしたままの二人に近づいて、ぎうとその身体を抱きしめた。

「なっ、」
「せんぱ…!?」
「よしよし、もう怒ってないから。顔上げて」

頭を撫でながら言うと、おそるおそる二人は顔をあげる。
その目にうっすらとうかんだ涙をぬぐって、二人に笑顔を向けてあげるとつられたように二人も笑顔を向けてくれた。



(あぁもうこの子達は!) (なんといじらしいことでしょう!)


「でも後片付けは二人でするんだからね」
「「…はーい」」
「あと罰として一週間喧嘩禁止。破ったら1ヶ月口聞かないからね」
「「え゛!?」」
「なんか文句あるの?」
「いえ…」
「ありません…」

((先輩怒ると怖ぇえええ!!))