「さよなら」

自分の夢を追うのに彼は邪魔だったので別れを告げた.

彼は一瞬悲しい顔をしたが,お前がそう言うなら,と言って微笑んだ.



気がつけばあの日から10年が経つ.













「先生」

「どうしました?」

外科医になるため研修医として大学病院に配属され早数ヶ月.

先生と呼ばれるのにも慣れ,家に帰る暇も無い.
必然的に睡眠も食事もままならず疲労もピークに達していた.

「先生,診察お願いします.」

「今行きます.」

入院患者とは違う外来からの患者の診察.

カルテを受け取り診察室へ入る.


名前:東月錫也




「...」

「先生?どうしました?」

まさか.

「いや,なんでもない,です.」

まさかあの人が.

「こんにちは」

軽く動揺しながら診察室に入ると,そこにいたのは懐かしい彼だった.

「...久しぶりだな.」

彼は驚く様子もなく.椅子に座ったまま私を見上げていた.

見る限り具合が悪そうでも無い.

何しに来たんだこの男.

「...時間が無いので手短に」

彼は間髪入れずに答えた.

好きだ,

と.

冗談でしょ?

冗談じゃない.

何言ってんの?

迎えに来た.

ちょっと,話通じてる?

ずっと,ずっと待ってた.

ねぇ,錫也.

ずっと好きていたんだ.

でも私は,

俺の事,好きじゃない?

「せ,先生」

背後で聞こえたナースの声に私は我に帰った.

「...私は忙しいので.」

病人でもないのに来るな.

私は立って診察室を出ようとした.

「今研修医なんだってな.」

「...」

「研修終わる頃にまた来る.」

彼はそう言って診察室を出て行った.


冗談じゃない.

医者になるための仕事がただでさえキリキリなのに恋愛までこなせと?

私の視線の先には今しがた彼が置いていった手作りお弁当の包み.

馬鹿かあの男.

私はそれを手に取り診察室から持ち去った.でもそれはあの男が気になるからじゃない.

ただ,お腹が空いていたから.

それ以外になんの理由もない,はずだ.






頬が暑い,風邪かな.





(想うだけの恋に

(飽き飽きしていたの,


(さよなら

(意地っ張りな私





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さよなら企画提出,
主催者の音々様,読んで下さった皆様,ありがとうございました!
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