「す、き・・。」


『好き』という言葉を口にした途端、涙が溢れてしまって。

わたしはそれを止める術が分からずに立ち尽くしていた。


「好きな人ができたんだ。」


そう言って笑う友人の笑顔は綺麗で、穢れを知らないように見えた。

好きな人ができたという話題は、それは本当に普通の女の子なら誰しも気になる話題だ。
その話題をするのが自分の友人であるのなら尚更である。


「好きな人?」


わたしの友人はとってもかわいくて、『マドンナ』っていうあだ名がついている。
それ位かわいくて、そして綺麗だからそんな彼女に好きって言われる人は幸せだな、なんて思った。


「あのね、誰にも言わないでね。」


声を小さくしてこそこそと言ってくる友人に耳を傾ける。


「木ノ瀬くんなんだ。」

「、」


でも、そんな友人から出た人物の名前にわたしは呼吸を忘れてしまった。
だって、その人は私の好きな人でもあったから。


「言わないでね。」


目頭がちりっと痛くなって、涙が溢れてしまう前兆だと気付いた。
わたしは急いで教室から飛び出して、とにかく走った。
その時友人の声が聞こえたけどわたしにはそんなの気にしていられなかった。


走って走って、辿り着いたのは屋上だった。
屋上に誰もいないことを確認して空を見上げる。

空は青かった。


「わたしだって、好きなのに。」


口にしてみれば、さっきまで麻痺していた自分の気持ちが元に戻ってきて涙が溢れてきた。

空は青くて、その青さはいつもとさして変わらない色なのに今のわたしにはとても眩しかった。


「・・・。」


もう一度空を見上げてわたしは屋上を後にした。


―――――
「あの・・ね。昨日羊くんから聞いたの。」


翌日の放課後。
屋上に呼ばれたわたしは友人と話をした。


「何にも知らなかった。それで、それで最後には、」


彼女の紡ぐ言葉がどこか遠くからの音に聞こえた。


『木ノ瀬くんと付き合うことになったの。』

『そ、っか。』

『あの、』

『幸せにならないと許さないからね。』

『!』


息を殺して泣いた
過去はもう過去だから。
前を向かなくちゃ。

わたしは再び屋上で空を見上げた。

やっぱり屋上から見る空は気持ちいい。
時折頬にあたる風に目を細めていると、ふと人の視線を感じた。


「吹っ切れたんだな。」


そこには友人の彼と同じ部活である同級生の男の子がいた。

ふわっと笑う彼にわたしは笑顔を返した。


「そうだといいんだけどな。」



※企画「さよなら」に提出
友人=月子ちゃんです。あえて月子ちゃんの名前は出さないで書きました。
梓に恋をするものの月子ちゃんに先を越されてしまう。けれどヒロインは心が広くて前を進むことを誓う。
そんなとき屋上で一人の男子に会う。・・ええ、宮地のつもりです。
笑顔を返す=新しい恋の予感を少し出しながらお話は終わりにしたつもりです。
ああ、こんな作品でいいのか。不安!!
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