玄関に並ぶ靴を見て、小さな声をあげてしまった。今日、僕の家で勉強会をする約束をしていたから家にいることは当然と言えば当然、けれどそれだけで胸は幸せでいっぱいだった。かなでさん、愛しい人の名前を呼べば頬が熱くなるのを感じた。

「ただいま帰りました」
「お帰りなさい、雪広さん」

ああ、なんて幸せなんだろう。帰れば彼女の声が聞こえる。彼女と始めて出会ったときには想像もしなかった、交際を始めて横浜の大学に来るまで焦がれ続けた風景。かなでさんは料理中だったのかエプロンを付けたまま玄関まで迎えに来てくれた。キッチンから味噌汁と焼き魚の美味しそうな香りが漂ってくる。

「かなでさん、お料理作ってくれたんですか?」
「はい、冷蔵庫の中のもの勝手に使っちゃったんですけど」
「構いませんよ。久しぶりですね、かなでさんの料理」

嬉しさのあまり顔がほころぶ。

「手を洗ってきます」
「風邪が流行ってるみたいですから、うがいもしてくださいね!」
「はい」

手を洗い、うがいを二回、最後に軽く口を濯ぐと料理が並ぶ部屋へ急いだ。

「美味しそうですね」
「頑張りましたから!」
「それは楽しみです」

一口味噌汁を飲む。久しぶりのかなでさんの味噌汁は優しい味がした。

「美味しいです」
「よかった」

ふわり、微笑んだ。

「なんだか、同棲してるみたいですね」
「え!」
「あ、すいません!」
「いえっ」

僕は何を言ってるんだろうか、赤くなった顔を隠し俯いた。ちらりと前を見るとかなでさんの顔も赤く染まっていた。

「かなでさん」
「はい」
「かなでさんが大学に合格したら、一緒に住みませんか?」





「ただいま」と、言える居場所

はい、とかなでさんは頬を赤らめ微笑んだ。

(幸せ、)






end
20100408
提出「君と過ごす夏」さま
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