4丁目の神様
この街には、小さな神社がある。
何の変哲もない、どちらかというと田舎寄りな町。
その一角にぽつんと佇んでいる神社は、なんだかいつも寂しそうに見えた。
小学校の近くにある公園で初めて少年を見たとき、それと似たような印象を受けたのは
少年が夕日に背を向けて、
ひとりぼっちで自分の足元に伸びた影を見つめていたからだと思う。
…足音を立てて近付いてきた秋の気配とともに
木枯らしが紅葉を揺らし始めた10月のことだ。
その少年は、私が夕方に公園前を通りかかるといつもそこにいた。
2つほどある鎖の錆びたブランコに腰掛けて、
沈んでいく陽の光を背に受けながら、何をするでもなくそこにただ座っていた。
陽に透ける髪は柔らかく、伏した目はガラス玉のように透き通った色をして、
長く黒い睫毛は涙で濡れているようにも見えた。
まるで迷子になった子どものようなその小さな背中が、私の中で強く印象に残っていた。
ある時、いつものように公園の前を通りかかり少年の方を見やると
普段なら一点だけを見つめている少年が、私の視線に気付いたらしく突然振り向いた。
まさか振り返るとは思っておらず、驚いて目を丸くしている私を見て少年もまたびっくりしていた。
けれど、一呼吸置くと
またいつもの迷子のような瞳をして私を見つめた。
少年は、いつも制服を着ていた。
ほんの少しよれっとした、真っ白いカッターシャツ。
そしてそのシャツに負けないぐらい白い肌をしていた。
「いつもここで何してるの?」
興味本位で私はそう聞いた。
少年の隣に腰掛けたブランコは、軽く漕いでみると小さくキィーと鳴いた。
「…街を見てた」
一見すると少学生ぐらいの少年は、まだ声変わりする前の幼い声でそう答えた。
鈴の音みたいな澄んだ声だ、と私は思った。