彼女が神様だったと気付いたのは、
「神様っていると思う?」
と目に見えない神様の存在を疑って彼女に尋ねたあと
彼女が答えて、その瞬間に強い風が吹いた時だ。
風が止んだとき、彼女は女子中学生の姿ではなくなっていた。
上手く説明できないけれど、
僕はその瞬間、それが「神様」だと悟った。
神様は、人がめったにこない神社に一人でいるのが寂しくて街をふらふらと出歩いているうちに、僕を見つけたんだと言った。
公園でいつも一人街を見ていた僕が自分と重なって、思わず声を掛けたんだ、と。
神様は寂しそうに目を伏せると、僕に「ごめんね」と謝った。
僕は神様と友達になれて嬉しかったから、謝る意味がわからずただ首を横に振った。
そして神様は、申し訳なさそうに目を伏せて小さな声で呟いた。
「もう、一緒に遊べないんだ」
神様曰わく、本当は人間に姿を見られてはいけないという掟があるらしく、
僕はずっと神様のことを人間だと思い込んでいたから友達でいられたけれど
正体を知られてしまったから、もう友達ではいられない――と。
せっかく仲良くなれた友達との別れはショックが大きくて、僕はその場で泣いた。
神様になだめられて、しばらくしてやっと泣き止んでから、僕は心から「ありがとう」と言った。
最後の最後まで困らせてばかりだったけど、神様は笑って
「ありがとう、楽しかったよ」
と言ってくれた。
最後にどちらからともなく握手して、その手を離した瞬間
神様はきらきら輝いて、そして、ゆっくりと消えていった。
その後急に転校が決まり、僕は4丁目を後に遠い県へ引っ越した。
その日以来、神様には会っていない。
でも毎年秋がくると、僕は決まってあの町で神様と遊んだ日々を思い出す。
* * *「…って感じかな」
僕がそう締めくくると、ずっと話を聞いていた友達は着物の裾で鼻水を拭いながら
「切ない話だね」
と涙声で一言呟いた。
「そうだね。でも…」
僕はそう言いながら友達を見る。
「その次に越してきた町で、
まさか座敷わらしと10年来の親友になるとは思わなかったよ」
そう言って笑うと、
彼女はキョトンとした顔をこちらに向けて恥ずかしそうにした。
外は賑やかな蝉時雨の聞こえる季節。
歴史を感じさせる古めかしい家の縁側で、しみじみと空を見上げた。
庭に咲いた向日葵の花が、
くすくすと笑うように風で優しく揺れた気がした。
4丁目の神様
(2013.1.26)