声にもならない溜め息を漏らして、電気も付けないまま窓の外を見ていた。
マンションのベランダからは、街の夜景が一望できる。
この景色が綺麗だからとこの部屋に決めたのに、今はその輝きも霞んで見えた。
テーブルの上に無造作に置かれたハガキには、ずっと好きだった人の幸せそうな笑顔が鮮明に映っていた。
そしてその隣で微笑む知らない男。
…彼女はこれからこの男と一緒に生きていくのか、とぼんやりした頭で思った。
『見た? 今の、流れ星!』
そう言ってはしゃいでいたあの日の彼女を思い出す。
高校生のとき、帰りが遅くなったからと彼女を家まで送って行った。
その頃はちょうどオリオン座流星群が近付いているとニュースでやっていて、
それを知った彼女は『1回でいいから見てみたいなー』なんて言っていた。
首が痛くなるほど夜空を見上げて歩く彼女の隣を、カラカラと小さな音を立てる自転車を押して歩く。
彼女があまりに上ばかり見てるものだから
『そんなに流れ星を探して、なにをお願いするの?』
と聞いたら、
『んー?かずくんに彼女ができますようにー』
なんてねー、と笑って返された。
…その頃からすでに、この想いは一方通行だったんだろう。
結局、彼女は流れ星を見たと嬉しそうにはしゃいでいて、
僕は空よりもそんな彼女ばかり見ていた。
気持ちを伝えられないまま高校を卒業して、離れ離れになったまま就職して、夜も眩しい都会のこの街にやって来た。
その間もずっと彼女のことが心のどこかにあった。
でも、今更なにも言えなかった。
『かずくん元気? ぜんぜん変わんないねー』
数年ぶりに同窓会で会った彼女は、そう言う自分の方こそ全く変わっていなかった。
ただ一つ違っていたのは
『付き合ってる人いるんだー』
照れくさそうに笑って恥ずかしそうに頬を掻く、今まで見たことのない表情だけだった。