(泣かないでくれ、相棒。おれのだいじな、…だいすきなロシナンテ)
血が流れていく。絶対量のない猫では、もう数分と経たず死んでしまうだろう。
「――に、ぁ…」
覚束無い、という言葉でさえ足りない。今にも倒れそうに、毛皮を自身の血で濡らしながらロシナンテの方へと足を向ける。
(おれの足、ちゃんと動け、頼むから。最期は…あいつの側で迎えたいだろ…)

「レン…レン……」
消え入りそうなロシナンテの声。じりじりと腕が伸びる。黒猫が時折倒れこみながらも必死に最期の力を振り絞って寄っていく。触りなれた毛皮がようやくその手に触れた。
(レン、ごめんな、おれのせいだ)
ロシナンテは、手の上で崩れ落ちたレンを引き寄せて抱き込んだ。
暖かいはずのレンが、こんなにも冷たい。愛しい柔らかさが固くなるのも最早時間の問題で――そして自分がそうなるのも、もうすぐそこにある。

にぁと途切れ途切れにか細く落ちる声に、何故だか線香花火が浮かんだ。ああ、死んじまう。レンが。唯一無二の相棒が。
ざらりと、いつの間にか溢れていた涙をレンが舐めたのがわかった。今まで何度もされた、慰めるためのそれ。
(――一緒に逝こうな、レン)
そうロシナンテが考えるのとどちらが早かっただろう。
轟音が空気を揺るがせた。ロシナンテの体が銃弾を撃ち込まれた衝撃に跳ねる。――その体からは一片の力さえ感じない。
彼が救った少年は絶望して無音の絶叫を響かせている。
けれど、ロシナンテと彼の愛猫は不幸ではなかった。彼らは大事なものを守れなかったけれど、それでも離れ離れになることはなかったから。

((あいしてるぜ、相棒))
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