企画サイト : CAST OFF !様に提出


「憎んでくれ、テゾーロ…おれを、どうか」
憎まれて殺されてでも生きていてほしいひとがいる。
大事な大事な、おれの宝物。幼く少々小汚いからだで、しかしどんなものにも負けない眩さに包まれた美しい子。きみに出会った日を、おれは絶対に忘れないだろう。
きみはおれに助けられたと思っているかもしれないけど、真実は違う。おれが、きみに救われたのだ。
エゴなのはわかってる。それでもどうか、きみがもう1度生きることを選べるようになるまで生きてくれ。おれの宝物(テゾーロ)

**

「可愛いテゾーロ。おまえの大事なあの女、死んだんだろう?」

レンは、奴隷を助けようと躍起になっていると噂になっていた馬鹿な男であり、同時におれの希望だった。
その男が、おれに向かって驚くほど醜悪な笑みを見せた。おれを可愛いと称しながら、ニィと笑う。

「――殺したのは、おれだよ」

それを聞いた時の絶望といったら、例えようもないものだった。
ステラが死んだその時と劣らないほどの酷く深い絶望感。
それほどまでにレンはおれにとって大事な人間だった。
それでもおれはステラを選び、あいつを憎悪した。


何年経ったろう。おれがあの地獄から逃げて、あいつに裏切られて。
ようやくだ。ようやく、あいつを殺す時が来た。

「よぉ、テゾーロ。ようやくここまで来れたなァ」

ニィ、とあの時を彷彿とさせる笑みを浮かべてレンが振り返る。
ぶわりと広がるおれの殺気に、しかし目の前の男は何の反応も見せない。――おれの殺気など、取るに足らないということか。

「お前を殺すためにここまで来た…レン」

おれの言った言葉に表情一つ動かさず、レンは剣を抜いた。

「さァ、殺し合おうぜ?おれの可愛いテゾーロ」

(おれのだと、可愛いと、まだそう言うのか。ステラを殺したその身で!!)

「殺す!!」


−−血の海に沈んだレンはそれでも真っ直ぐな瞳を失わない。ギラギラとした光を宿したそれがテゾーロを貫く。
テゾーロはその視線から逃げるように背を向けた。

「テゾー、ロ……」

強い視線とは裏腹に酷く弱々しい声がした。思わず振り向こうとして、ハッと我に返る。――まだ、信じているのか。ステラを殺し、たった今まで殺し合っていたこの男を。
そんな訳はないと心中唱えたそれに当然だと確信すると同時にばちゃりという水音が空気を揺らす。
先程までしていたひゅうひゅうという喘鳴はもう聞こえない。
聞こえるのは、テゾーロの静かな呼吸だけ。

「あぁ……」

終わった、と。そう思った。
(ステラ、きみの仇を討ったよ)
そう報告すれば、瞼の裏で金色が微笑む。隅で裏切られたと泣く幼い自分には気付かない振りをして、テゾーロは星に微笑み返した。

**

相変わらず彼は眩しかった。美しかった。綺麗だった。殺してやると睨むその瞳も、向けられる殺気も、洗練された美麗を纏っているように感じた。
大事な大事な、おれの宝。−−もう自分にそう言う権利はないけれど。

「さァ、殺し合おうぜ?」

早く殺してくれ。そして今度こそ幸せになってくれ。もうお前はおれという目的が無くとも大丈夫だろう?

テゾーロは強かった。身体も、そして地位も。天竜人に影響力を持つほどに、見違えるほど強くなっていた。
自らの血に沈み、レンは光に手を伸ばす。眩しそうに、そして愛しそうに目を細めて。口元には緩く弧を映して。星を掴もうとするように、触れないと分かりながらも手を伸ばす。

「テゾー、ロ……」

−−しあわせになれ、おれの愛しい宝。
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