今となっては遠い昔のように感じられるが、ロシナンテは気まぐれに猫を拾ったことがある。薄汚れた裏路地の中、少々の汚れを受けながらも凛と立つ黒に惹かれて思わず手が伸びたのだったか。いつもなら気にかけもしないのに、その時だけはどうしてか酷く気になったのだ。
養い親であるセンゴクにわざわざ尋ねに行ってまで、当時の彼はその猫に惹かれていた。
そしてそれを感じたのは、正しくロシナンテを幸せにする運命であったのだろう。ロシナンテと黒猫は、人間同士でさえ稀な一心同体とも言えるほどの最高の相棒同士となったのだから。

***

――レンと名付けた猫はとても賢い。
誰に言うでもなくロシナンテはそう思う。
トイレは決められた場所でするし、危ないと言われた場所や、言われなくても危険なところに近づいたりしない。無闇矢鱈に鳴いたりもしない。言葉を分かっている素振りもある――というより、普段の様子を観ると分かっているとしか思えない。何なら戦闘の手助けまでしてみせることまである。

疑ったロシナンテが海楼石に触らせても何も起きない。レンは、真実猫だ。――少々では片付かないほどの賢さを持っているだけの猫。

普通の人間には重くても、普通より何mもの長身を持つロシナンテには普通の猫などぬいぐるみと同じようなものだ。レンをいつも肩やら頭やらに乗せては重さを感じていないように動き回るロシナンテというのは、ドンキホーテ海賊団への潜入の最中、見世物のように扱われた。
特にドフラミンゴなどは面白そうによくそれを見ていたし、ローはそれを馬鹿にしたりもしていた。――ロシナンテは何も気にしなかったが。

ロシナンテにとっては、レンが自身の傍にいるのは当たり前のことである。それは長年の癖であり、ほとんど不変の日常だ。
いつもいつも側にいて、ロシナンテが落ち込めば頬を舐めてぐりぐりと頭を擦り付けて慰め、嫌がらせをされかければぴょんと飛び上がって加害者――結果的には未遂だが――に爪を立て、ドジをしそうだとでも思ったのか熱い紅茶を目の前にしたり滑りやすそうな床であったりすれば尻尾で注意喚起をして。
ロシナンテの日常にとって肩、或いは頭に乗ったレンの存在は必要不可欠の存在だ。慣れた重みと慣れた注意喚起と慣れた慰めがなくなった途端調子は狂いドジは増え、1度落ち込めばずっと落ち込んだまま。

1回そんなことがあってから、レンはほとんどロシナンテの傍を離れなくなった。
全くしょうがないなぁとでも言いたげな鳴き声にロシナンテはむっとした顔を向ける。猫の鳴き声にそんなことを思うなんてどうかしていると思うが、どうしてかそんな気がするしそうだと分かる。分かるものは分かる。

「レンはおれのものだろ」

傍から聞けば傍若無人極まりない言葉だが、レンはみゃおと鳴いてそれに甘んじた。
しょうがない飼い主だが、それでもやはり大好きな相棒なのだから。
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -