――気付いたらおれは随分と美しい猫になっていた。
飼い主――相棒はドンキホーテ・ロシナンテ。通称コラソン。
彼に拾われたおれは、彼と共にドンキホーテ海賊団にいる。

覇気などが使えるわけでは勿論ない。意識があるだけで能力者でもない。けれど、意識があるというのは強みだ。相棒の助けができる。
例えば、後ろから狙っている奴がいればそちらに飛びかかって視界を塞ぐのと同時に爪で引っ掻くこともできるし、それが無理でも相棒に注意を促すことはできる。
何度か爪を活用しているうちに相棒もおれが考えてやっているということに気が付いて、不器用ながらに爪の手入れをしてくれるようになった。わたわたと落ち着かない様子ではあるが、細心の注意を払って手入れをしてくれるのはひどくくすぐったい心地がした。

相棒が優しくしてくれて幸せだ。最初はそんなことをする猫なんて当然怪しまれ、海楼石を嵌められたが真実猫であるおれに特に何が起こる訳でもなく、相棒は疑いを解いてくれ、その上おれをそばにおいたままにしてくれた。――あの時ほど嬉しいことも、今ほど幸せなこともすべて奇跡みたいだ。

みゃあ、と鳴いた声に相棒の大きい手が喉を擽る。
「…?」
目に鮮やかな道化師を模したメイクは最近やっと慣れてきた。潜入中は話せないことになっている相棒は、それでも変わらない優しい目を困らせておれを見た。
みゃあ、ともう1度響く鳴き声。なぁ、そんなに悲しそうな顔しないでくれよ、相棒。
ぺろりと手を舐める。猫になった当時は慣れなかったそれも今では相棒によくする仕草だ。だっておれにはもうほとんど何も出来ない。
みゃあ。みゃあ。とんとんと相棒の大きい体を上って肩につく。メイクでざらつく頬に、我ながら触り心地のいい毛並みを纏った頬を擦り付ける。
泣かないでくれ、相棒。おれはお前が幸せそうにしている姿が一番好きなんだ。
伝わらないのは分かっているが、それでも内心で相棒への言葉を呟く。愛おしい、大事なだいじな相棒。

くしゃり、と描かれた笑顔が歪んでおれの毛並みに顔が埋められる。
音のない悲痛な泣き声。ひくひくと泣きじゃくり、大きい体が震えるのを横目に、横っ腹を固定されながら頭を擦り付ける。泣かないでくれと。
みゃぁん…と弱々しいおれの鳴き声。部屋にあるのは、呼吸が詰まる音とおれの鳴き声だけ。
おれの愛しい相棒の声は、今は聞けない。
あの部屋に帰りたいな、相棒。相棒が笑顔で過ごせてた、あの部屋に。
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