「あぁ…かみさま。おれの、かみさま」

ぼんやりとその人を見上げ、少年は夢心地な声を出した。

「かみさま、かみさま、おれの、あぁ、きれいなひと、つよいひと、おれのあこがれで、かっこいい、……おれのかみさま」

太陽に焦がれる古代人のような瞳だった。
後ろ手に手錠を嵌められ、膝をつかされ、手を伸ばすどころか動かせもしない。
数十の剣や銃に囲まれていて、上から見下ろされ、それでも尚男には一片の恐れもなかった。

「かみさま、かみさま、かみさま…!おれの、かみさま…!ずっとあなたが、あなただけがおれのかみさまだった!あなたがおれをすくってくれた!あぁ、かみさま…!」

はらはらと涙を零し、神様、と目の前のひとに縋る。少年の感涙は止むところを知らず、周りの者達は、その気狂いとしか思えない少年にやや腰が引けていた。

「かみさま、あなたはおれをころしたい?おれがじゃま?しんでほしい?…おれ、あなたのためならなんだってできます。かみさま、おれのかみさま、ねぇ、おれはあなたののぞむとおりに…!!」

じっと男を見つめていた、彼にかみさまと称されるその人は、−−エドワード・ニューゲートは、ようやく口を開いた。

「坊主…名前は?」

こてり。ひどく幼い仕草で、少年は首をかしげた。

「なまえ…?おれの、なまえ?あぁ、なんだったかな…たしか……そうだ、えっと、な、な…なお?」

そうだ、おれのなまえはナオだよ、と、声音も表情もその瞳以外の何もかもががらんどうな少年は、傷だらけの体でそう言った。

*****

新しく家族になった少年は、自分の名前だと言ったそれへの反応は頗る遅い癖に、おい、だとか、お前、だとかと言う時には迅速な反応を見せた。
それを見る度に、少年の視界の外で船員たちは顔を歪める。
彼の親は、名前も呼んでいなかったのかと。

そも、どこからか彼が現れた時にはすでに体は傷だらけ、ひどくやせ細った状態だったのだ。表情さえ奪われ、自身の名前すらあやふや。そんな彼が今にも折れそうな手を、かみさま、と泣きながら白ひげに伸ばす姿は、見知らぬ闖入者に警戒していたはずの船員さえ臆すような異様さで、そして痛々しかった。

家族にする、と白ひげが言った時に誰も反対しなかったのは、自分たちが尊敬するオヤジであることは勿論だが、少年のその弱々しさにも理由があった。
彼の歳を知った時は全員揃って目を剥いた。
彼の外見年齢と実年齢は、実に6歳ほどの差があった。−−外見は、10歳そこらにしか見えないのだ。ともすれば、8歳やそれ以下にも取れるほどの発育不良。実年齢を問えば、確か−−彼は年齢さえも考え込むのだ−−16だったはず、と自身なさげに言う。

勿論船員の中には悲惨な家庭環境の者もいる。むしろ何分の一かはそんな者だろう。
だが、少年はその小ささだとか細さだとか、何よりその年齢のせいで、ひどく痛々しいのだ。

かみさま、と落涙する無表情の少年の、その瞳だけが感動に揺れるのを、未だにサッチは思い出す。

当時からすると太くなり始めた腕を握って撫でて、よかったなぁ、と呟く。

不思議そうに首を傾げた彼に、お前が元気になってきてくれてよかったと笑うと、彼はひどく嬉しそうな声を上げた。

「おれなんかのことでサッチさんがよろこんでくれてうれしいです」

あぁ、と相槌を打ちながら、サッチは彼を抱きしめた。
−−いつかお前のことを笑わせてやるからな。
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -