夏バテしてる暇さえない





休憩。
つづけてきた仕事や運動などを一時やめて、からだをやすめること。








結論
太子は受験で疲れている。
だから身近な僕と付き合うということをしたのだ。
と言うことにしよう。
だから僕もこの一夏ぐらいはそれに付き合ってあげよう。受験が終われば正常に戻るはずだし。

1人、部屋で決意を新たにしているとチャイムが鳴った。
押した人間の予想はなんとなくだけどついている。
ゆっくりと玄関に向かう。


「よ、妹子」


予想通りそこにいたのは太子だった。


「あんた受験大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ!やれば出来る子だからな私は」


知ってますか太子、それは出来ない人の言葉なんです。


「……で、今日はなんですか?」「河原に行くぞ!」


どうせ断ったってプール掃除の時のように有無を言わさず無理矢理連れていくに決まっている。
さっき一夏付き合ってあげると決心したところだ。


「…わかりました」


僕は最低限の荷物(携帯と財布)をポケットに入れ込み自転車に跨る。
今回もろくなことじゃないのだろうか…
























「見ろ可愛いだろ!」
「…可愛い、ですね」


河原に着くなり太子が駆け出して橋の下から子犬を抱き上げて連れてきた。
ちっちゃくて白くて可愛い。


「最近見つけた野良でな、ソロモンって名付けた」


太子の腕の中で抱かれてわしゃわしゃと撫でられるソロモンはとても気持ち良さそうだ。


「野良なんですか?」
「私の家では飼えないんだ…」
「……」


太子は昔から犬好きだったもんな、飼えるならすぐにでも飼ってるか。
こんな子犬捨てるなんてひどいもんだな。こんなに可愛いのに…


「僕の家で飼えるように掛け合ってみましょうか?」
「いいのか!?」
「許可が貰えさえすればですけど」
「おー良かったなソロモン!」


太子が自分の事のように喜びソロモンを撫でる。ソロモンはそれが気持ち良いようで目を細めて太子に寄り添っている。


「僕の家で飼えれば太子いつだってソロモンと遊べますからね」


僕もソロモンの頭に手を伸ばし撫でてみる。
最初は驚いていたソロモンも次第に慣れたようで、気持ち良さそうにしていた。


「…あぁ」


僕はソロモンを撫でるのに夢中で太子の煮え切らない返事にも気付かなかった。







「あっ、妹子確認とるならなるべく早くな!
夏の夜は冷えるからソロモンが長いこと橋の下にいるのは避けたいんだ」
「はいはい、わかりましたよ
まあでも、さっき母さんに写真付きでメール送ったら喜んでたから大丈夫だと思いますよ」
「本当か!
わりと今は鼻が濡れてるから元気だけど…あ、食べ物はちゃんと犬用の物だけにしろよ、
あと狂犬病とかフェラリアは直ぐに予防に行けよ!」


太子は娘を嫁に出すお義父さんかのように(ソロモンはオスだけど)僕に必死に説明してきた。
その真剣さといえば、普段の様子から想像も出来ないもので、牛乳は人間の奴はタンパク質粒が大きいから駄目だとか語っている太子に笑ってしまう。


「本当に犬好きですね、獣医みたいですね」


何気なく、そう言った。








「本当か!私獣医みたいか!?」


だからそんな嬉しいそうに
そんなに輝いた顔をするとは思わなくて、ドキリ、とした。
カッコいいと思った。

そんな風に思ってしまったことが悔しくて、なんだか赤くなる顔が恥ずかしくて顔を背けて、話題を反らした。


「そう言えば太子こんなに遊んでて大丈夫なんですか?」
「んー、だから私は出来る子なんだよなーソロモン」
「あんた日和大学受けるんでしょ?あそこ倍率高いんですよ」


日和大学はここから電車乗り継いで40分ぐらいの大学で、昔から太子が行くのだと言っていた大学だ。
不覚にもかぶってしまったが、ゆくゆく僕も行こうかと思っている所だ。


「…あー、うん……大丈夫だ」


大丈夫じゃ無さそうな返事なんですが?
って言おうとしたけど、太子が神妙な顔をしていたから口を開けなかった。
受験の事をあまり他人がとやかく言うものでもないよな。










「あ、言い逃すとこだった!妹子!」
「うわっ、いきなり叫ばないで下さいよ
なんですか?」
「確かに私犬は大好きだけど、妹子はそれ以上に大好きだから」


それこそソロモンを撫でるように僕の頭をわしゃわしゃとしながら太子はそんな臭い台詞をはきやがった。
話を流すために言ったであろうそんな台詞に僕の心が浮くのが分かった。





















夏バテしてる暇さえない
(心臓はせわしなく暴れている)


にこやかにソロモンを抱き抱える太子を直視することが出来なかった。





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