後ろめたさを感じる





手。
人体の手首から指先までの部分。(ひゆ的に)ものをつかまえ、支配する力を持つもの。












「よ、妹子」


無理矢理曽良の家から出された僕を迎えたのは白の半袖シャツに青いジャージのズボン姿の太子。


「もう会えましたのでこれで満足でしょう
失礼します」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょいまちんしゃい!
会うってそういう事意味じゃないわい!」


太子の横を通り帰路につこうとしたが、太子のディフェンスに止められた。


「出掛けようって事に決まってるだろうが!」
「わかってますよそんなの」
「じゃあなんで帰ろうとするんだこのお馬鹿芋!」
「太子と居るのがやだからですよ」


人の家の前で巻き起こる帰る帰らない抗争。互いに引かずに押し合い引き合い…
こんなことしてるといつもと変わらなくて、あの告白事件が嘘だったのではないか、とさえ思えてしまう。


「か・え・ろ・う・と・す・る・な!」
「か・え・り・ま・すッ!」
「お前はぁー…

せっかく恋人が久々に会いに来たと言うのに…」


ハタッ、ともみ合っていた手が止まる。
あぁ、やっぱり。
あの告白は嘘でも夢でもなく現実だったのだ。







…ちゃんと断らないと。
あれは暑かったから判断力や理解力が鈍っていただけなのだ、と
太子は幼なじみで、家族のようで、先輩でしかないのだ、と伝えなければ。


「…………太子その件ですけど、」
「やっとあきらめたか!よし!行くぞ」
「え、ちょっと太子」


動きを止めた僕を降参したのだと勘違いした太子は僕の手を掴み引っ張って走りだした。
その手から伝わる太子の温度が熱くて、屋内の素晴らしさを再認識した。…って感心してる場合じゃなくて!


「ちょっと、太子聞いて下さい!」
「後でな、急ぐぞ」
「いや、だから…って、何処に行くんです?」


もう抵抗は諦めよう。
どうせ逃げられないと分かっている。太子は言いだしたら聞かないのだ。


「ん、学校!」
「学校ぉ?」


何故学校に?


「…ていうか走りにくいです、手離してください」
「ああゴメン」


何故学校へ急いでいるのかはわからない。
でも行き先が分かったのだから、リードされなくとも自分で走れる、と半ば無理矢理離してもらった手。
太子に掴まれていたところが、まだ熱い。


「着いたらわかるから」


そういって笑い、夏日に輝く太子の顔があまり焼けていないのに気がついた。
そうだ、太子は受験生だ。この夏が勝負の夏なのか…
















「はい」


学校に着き、渡されたのはモップ。


「はい?」


笑顔で僕にそれを押しつけて来た松尾先生に僕も負けじと笑顔で疑問を投げかける。


「太子君と一緒にプール掃除手伝ってくれるんだよね!ありがとう!」
「え」


初耳だ。
そして太子は既に掃除を始めている。…太子、あの野郎…


「ちょっと太子!どういうことですか!」
「補習終わりに芭蕉さんが
プール掃除の人手が足りない
って言ったからな」
「掃除するなんて聞いてませんよ!」
「だって言ったら来ないだろうが!」


そういう所でなんで威張るんだこのアホは。


「ごめんね、嫌だった?
明日水泳の大会がこの学校で行われるから、その前に掃除しておきたかったんだ」
「松尾先生は悪くないですよ!
悪いのは騙して連れてきた太子ですし、先生1人に掃除させるなんて出来ませんから」


松尾先生はもう少し手伝ってくれる人を探すと言ってプールから去って行った。










ゴシゴシゴシゴシ、と
青い地面を磨く。
夏なのに水を張っていないプールの中はなんだか違和感がある。でもこんなイレギュラーも良いかもしれない。
でも、これって
…デートじゃ、ないじゃん……。
悩んでいたことが馬鹿らしい。
僕が、下手に太子との仲意識し過ぎなだけなのだろうか?
夏休み入る前からずっと太子に空回りさせられてる。

太子は何を思って僕に告白して、僕の事をどう思っているのだろう…

モップを動かす手を止めて太子を見る。
と同時に下を向きプールを磨いていた太子が顔を上げ、目が合う。


「何、妹子?私に見とれた?」
「んなわけねーだろ!」
「なんだよーうん、とか言う可愛いさを持てよ!」


男が可愛いさ持ってどうすんだ。
馬鹿らしく思い、僕はまた掃除を再開した。太子はまだ手を止めて話している。


「つれないな妹子め!
あ、あれか…
デートだと思ったのに違ったから拗ねてる?」
「んなっ!!」


予想にしなかった太子の言葉に思わずモップの柄が手からずり落ちた。
カランカランと虚しい音が空のプールに響く。


「……………もしかして図星、か?」
「あ、アホか!違うっつの」


拗ねてる…わけではないけれど考えていたことを当てられてドキリとする。


「………何笑ってんですか太子」
「いやぁ…嬉しくて
妹子がそうやって拗ねてくれる事が」
「…………」





何も返せない。
それは誤解なのだと、
確かに僕は太子の事は好きだけど、それは恋愛感情ではないのだと、
ちゃんと言わなければいけない、のに……
言えないんだ……。






















後ろめたさを感じる
(あんなに嬉しそうな笑顔を見たらとてもじゃないけど言えない)


デートはまた今度行こうな、
その言葉に頷く僕はどうしようもなく流されていく。





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