最低のスタート
夏。
四季の1つ。1年のうちで最も暑く昼間の長い季節。太陽暦の6月から8月までを指す。
夏は嫌いだ。
暑い、とかそういうのじゃなくて
夏の始まりに感じる、
終わりの哀しい感覚が、嫌いだ。
シャリシャリと口の中に広がるアイスキャンディーが心地よい涼しさをかもしだす。
普通に食べたら暑い分早く溶けちゃうけど、急いで食べると頭がキーンとなる。その中間のペースを自分で見つけて食べるのが至難の業だ。
ああ、馬鹿な幼なじみは一気に食べて辛そうにしてる。本当に馬鹿だなあの人は。
…あれ、その棒あたりじゃないのか?
―ミーンミンミンミーン―
蝉は鳴く。
その限られた一週間の存在を誇示するように、それはもううるさく。
ご苦労な事だ。
こんな暑い中鳴き続けて…。僕なら土の中で何不自由なく生きて行くことを選びたい。そして、ずっと夏が来ないことを願うんだ。
「今年は鳴き始めが早くないですか?」
「蝉か?確かに早いな、まだ7月入ったばかりなのにな」
「夏が、始まっちゃうんですね」
「そんなに嫌か、夏」
年中お祭りのような幼なじみには理解し難いのだろう、しかめっ面になっていたであろう僕に苦笑を向ける。
「夏の始まりってどうも、夏が終わっちゃう時の悲しさを思い出しちゃうんですよね」
線香花火が落ちる時のような切ない気持ちがよぎる。ざわつく心にしかめっ面の凄みは増していく。
「ネガティブだなぁ、妹子は」
逆にアンタはポジティブすぎんだろ、と言う意を込めて睨むと
首をすくめてわざとらしく無視された。
ああ、もう、暑い
「なぁ、妹子付き合おうか」
はぁ何を言ってんだ、暑さで遂に脳が(もとから大分だけど)性別を判断出来なくなるほどおかしくなったんですか?
って言いたかった。
でも、暑くて、暑くて、僕の脳もオーバーヒート状態で思考能力が低下していたのだろう。ソーダ味のアイスのあたり棒を手で弄びながらそんな事言う幼なじみを見てたら、どうでも良くなった。
「いいですよ付き合いましょう太子」
あたり棒を折る勢いで喜ぶ幼なじみを見て、段々と戻って来た思考は後悔と言う2文字をただ浮かばせていた。
最低のスタート
(夏は始まった)
太子があたり棒をおばちゃんに渡しに行っている間、時間を巻き戻す方法だけを考えた。