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「早く名前教えたいなー」

新しい秘書が来るのを待つ。
多分さっきどこかに行くのが見えたから、可愛がってる鬼の子に会いにでも言ったのかな?ならもうちょっと待たないといけないかな。

「楽しみだなぁ」

彼は本当に優秀な鬼だ。これから一緒に仕事ができるのが楽しみだ
他の秘書候補の子達と違って青い目をしていたのだけど、誰よりも聡明で、何より楽しい子だ。
オレに気を遣いすぎてガチガチになっている他の奴らと違って、ストレートに物を言う。信頼できる子だ。
そんな彼があそこまで褒める子鬼は気になる。
銀色の髪の鬼は大分昔に一度秘書だったことがある。確かその子はとても仕事が出来て、転生の際もすごく立派な人間として名を残していた。
そう思うとその鬼が秘書候補としてやって来るのも楽しみになってくる。



「ん?」

地獄の方が騒がしい?
聴覚で捕えた騒がしさでなく、直感でそう感じた。
1人で地獄に入るのは結構怖いんだけど、どうにも胸騒ぎがして、地獄に通ずる扉に手をかける。

(気のせいだといいんだけどな…)



暫く地獄を巡っているとやけに血の池が閑散としているのに気が付いた。
死者が一人もいない。
そんなはずはない、慌てて池の様子を伺った。

「あれはっ、」

池の奥に銀色に揺らめく髪が見えた。
彼の言っていたあの子鬼だ。
すぐさま血の池に漂う邪気を払い子鬼を救いに行く。



池に落ちてからどれぐらいたつのだろうかは分からないが、小さな体は邪気にやられ危うい状態だ。

「銀!」

オレと子鬼の姿を見つけた彼が慌ててこちらへ走ってきた。

「君はどうしてここに」
「銀が、…その子が遅いので心配になって大王、コイツは…」
「死者に引きずり込まれたのかも、危ない状態だよ
肉体がかなりやられてる、このままじゃ魂も危ない」
「そんな……魂まで消えてしまった場合は、」
「……消え、ちゃうね……二度と転生もしない、存在の死」
「、っそんな」

肉体が再生できない状態にまで邪気なやられているんじゃ助ける手立てがない。
オレは閻魔大王なのに、未来ある子鬼一人も救えない。







「大王…僕の体を使ってこの子を再生することはできますか?」

その発言にオレは驚いて彼を見た。
その顔はじっと子鬼を見ている。

「出来ると思うけど…それじゃあ君が死んじゃうよ!?
それに成功するかも分からない」
「魂は死なないでしょう?それなら僕はまた生まれ変われる。
このままこの子を見殺しにするなら僕の体を使って少しでも可能性を高めたいんです」

目線はまだ子鬼に向いている。

「どうして、そこまで」
「コイツは僕の後継者なんです、絶対に僕より優秀な秘書になります、だから…こんなところで死なせたくないんです」

子鬼に向けていた顔をオレに向ける。迷いのない真剣な表示と対峙する。
本気なんだね、君は。
オレは本当に凄い秘書を選んだものだ。

「……わかったよ」
「ありがとうございます」
「本当に良いんだね」
「はい…あ、秘書の仕事投げ捨ててすいません」
「今更だよ」
「短い間でしたがありがとうございます」

そして彼は子鬼に向けて優しい眼差しを送った。

「銀をお願いします」
「じゃあいくよ」





























「…それで成功したんだ」
「…兄ちゃんが、」
「彼の体を元に君の体を再生させた」
「そんなっ、」

起き上がろうと上半身を上げた時しゃらりと視界に金が見えた。

「見てご覧」
「……」

閻魔大王が取り出した鏡に映ったのは兄ちゃんの綺麗な髪をした紅い目の子鬼だった。




「俺、俺は…」

涙がぼろぼろと落ちていく。
悲しい、悔しい、あの時ちゃんと注意をしてれば、と後悔が襲ってくる。

「…君の中には彼の魂が入ってる」

閻魔大王は俺の頭を優しく撫でた。

「彼は君の中で生きてる」

俺の中に兄ちゃんの魂がある?
俺の中に生きている。

「俺は、どうしたら、」
「オレは…君に秘書になってもらいたい」
「……」
「彼の代わりになれ、とかそういった意味じゃないよ、君を救ったのは彼の我が儘だからね」
「………」
「オレの選んだ優秀な秘書が後継者に選んだ君に、オレ自信も不思議なくらい期待してるんだ」

胸の奥で何かが訴えかけているような気がする。それに耳を澄ませば兄ちゃんの応援する声が聞こえた気がした。
兄ちゃんはここに、俺の中にいるんだ。

「酷なことかもしれない…それでもオレは、彼の名をついで、君には秘書になってもらいたい」

顔を上げる。まだ涙は止まってなかったけど構わず閻魔大王に顔を向けた。



「俺…僕は、なる…なります、ならせて下さい!」

償いなんかじゃない、兄ちゃんが最後まで信じてくれたから、特別な銀色を信じて くれたからそれに応えるんだ。







「…期待してるよ鬼男君」
「鬼男…」
「君の名前だ」

差し出された手を握った。



「一緒に頑張ろう、鬼男君」
「……はい!」

内側で見ていて、必ず貴方を越える秘書になるから。









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