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今度の閻魔大王の秘書は歴代の中でも一、二を争うほど優秀な鬼だと地獄の鬼達の間でもっぱらの噂だ。


…そんな事俺には関係ないからどうでもいいんだ。閻魔大王の秘書なんて、俺には無縁な話。







タッタッタ

血の池の横を落ちないように器用に走る。



「銀の鬼の子だ」
「ああ 可哀想に 銀の鬼の子」
「知ってるんだよ 鬼の子」
「お前のような銀の髪した鬼は 閻魔大王の下で働けない」

地獄の亡者達が血の池から呟くように投げ掛けてくる。

「うるさい!」

俺が睨むと奴らはわざとらしく首をすくめる。

おそろしや、おそろしや

にやにやとしながら亡者達は血の池に引っ込んで行った。

(うるさいうるさい!)

もう一度心の中で叫ぶ。
歩くたびに揺れる自分の銀の髪が疎ましい。この、銀の髪が嫌いで嫌いで仕方がない。
本来鬼の髪は金色で、俺のような銀色の髪をした鬼は通常おらず、周りの鬼達から不浄の者の象徴とされている。
俺に言わせれば他の奴らと自分の差などない、むしろ俺の方が優れているようにだって思えるのに。

『銀の髪した鬼は 閻魔大王の下で働けない』

頭の中で先ほどの言葉が何度も何度もこだまする。

「うる、さい」

別にいいんだ。
俺は別に…。























血の池を越えて、地獄の奥深く鬼達の住みかから遠く離れた場所に、天国と地獄の狭間となる場所がある。
そこにはただひたすら草原が広がっていて一本の木がぽつりとあるだけで、それ以外には何もない。最近見つけた穴場で、同世代の鬼も大きな鬼も誰もしらない。
俺にとってそこは鬼達の住みかより居心地の良いもので、地獄の奥から抜け出してよくそこに行っている。
今日も1人そこに行っていたのだけど…木の影に何か、いる?
俺は歩みを止め、その木の下に目をこらす。
木の下には座った人の姿が見える…。もう少し近づいて見てみると頭に角が見えた。

(……鬼…だ)

その鬼は今まで見てきた鬼達の中でも類を見ないほど綺麗な金色の髪をしていた。
一瞬その姿に魅入ってしまったけど、ここは俺の見つけた穴場、誰か知らないけど取られる訳にはいかない。

(俺の髪を見たら逃げるだろう…)

皮肉な事に嫌いなこの髪がこういう時に役に立つ。
少し駆け足で木の下へ向かう。



木の下に到着し、わざと足音をたてて立ち止まった。
木の下で本を読んでいたらしい鬼はその音に気付いたのか、本を膝に置き、こちらを向いて会釈をしてきた。

「やぁ、どうも………君、綺麗な髪をしてるね」
「、ぁ」

笑顔でその鬼が放った言葉は俺にとっては信じられない言葉で、思わず「立ち退け」と言おうとした口から変な声がでた。
敵意のない言葉を向けられたのはおそらく初めてで、しかもこの髪を綺麗だと、誉められた。
何故かわからないけど胸の奥が熱くなって、涙が出そうになった。俺は、その涙を押さえて投げ掛けた。

「怖く、ないのか?」

威勢よく言ったつもりが弱々しく消え入りそうな声になってしまった。
綺麗な金の髪の鬼は可笑しな事を聞いたと言わんばかりに大きく口を開けて笑った。



「子鬼が怖くちゃ閻魔大王の秘書なんてやってらんないよ」
「…閻魔、大王…!?」

こいつが噂の、秘書?
その鬼はひとしきり笑い終わると、優しい顔になって俺を見た。

「それとも君は何か怖いことができるの?」
「…、いや別に」
「じゃあどうしてそんなことを?」
「だって、銀色の髪は、…不浄の者の証……だって」

またもその鬼は大きく口を開けて笑った。
ころころと表情の変わる鬼だ。

「何それ、誰が言ったのそれ」
「みんな…」
「そんなの信じなくていいよ、自分に無いものが羨ましい妬みってやつだよ」
「……」
「かの閻魔大王だってそんな事言ってないし、
僕は君みたいな銀の髪、初めて見たけど綺麗だと思うし、羨ましいと思うよ」

『羨ましい』
そんな言葉が自分に向けられるなんて思っても見なかった。

「もしかしたらその銀の髪には特別な力が宿ってるとかあるんじゃない?」

がしがしと俺の頭を乱暴に撫でながらその鬼は言った。
俺は押さえ付けるような撫で方に頭が上げられなかったけど、しばらく涙が止まらなくて、手を離されても顔を上げられなかった。





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