花見
テーマ『花見』
(飛鳥)
朝方だからだろう、まだあまり人が通っていないようで、踏まれていないため鮮やかな桃色の絨毯が道いっぱいに敷かれていた。散りぎわも美しいとはよく言ったもので、雨水を少し含むその絨毯は綺麗だった。
僕の横で上司はいかにも面白くなさそうに後ろに振り上げた足を地面目がけて蹴り付けた。それによって絨毯の一部が小さく宙を舞った。
「全部落ちてるじゃないか!」
「見たらわかります」
ひらひらと先ほど上司の蹴りあげた桃色が落ちてくる。
昨日は春雨と言うよりは豪雨と言ったほうが近い雨が降った。桜の花が落ちないか懸念されていたが、その通りになってしまった。
まるで何かの芸術作品のようにびっしりと道に並ぶ桜は咲いているそれより綺麗に思える。だが、僕の上司はなんだか不満のようで、さっきからずっとぶつぶつ言っている。
「私は桜を見に来たんだぞ!」
「いっぱいありますよ?」
「木に付いてる状態が良かったんじゃい!」
「そんなに怒られても…今日行くって言ったの太子ですよ」
「…雨が降るなら降るって教えろバカ芋!」
「えぇー、僕も知りませんよそんなの」
まだ微かに桜の残る木はちらほら見かけるが、満開の状態からすると見栄えば質素なものだ。
「…………」
「…………」
いよいよ上司は不機嫌になったようで、全く言葉を発さなくなった。
未だに地面に散らばる桜を鬱陶しそうに蹴りあげて歩いている。…何歳なんだか。
このまま歩いていても日が暮れるだけだ、と確信し、貴重な休みを無駄にしたくもなく、せっかくのお出かけをこんな嫌な空気で終わりにしたくもないので僕は適当な場所に荷物を降ろした。
「太子、ここでお花見しましょう?」
「…………」
もう、本当に面倒なおっさんだ。
「…カレーおにぎり、作ってきましたから」
まさに電光石火。下を向いて桜を蹴っていた太子の顔がすぐさま上がり、満開の笑顔をこちらに向けてきた。
「本当か!?早く出すでおま!」
…本当に何歳なのだろう、このおっさん。
子供らしい上司に苦笑しつつ、急かされながらご飯の準備をする。
「うまい!やっぱりカレーは最高だな!」
「あーはいはい」
あれだけ不満げに歩いていた癖に結局は花より団子って…。
まあ、機嫌が治ったならそれでいいんだけど。
おにぎりを頬張りながら、桜の絨毯を見つめる。これもある意味の花見にあたるのだろうか?
これはこれでなかなか情緒溢れるものがある。けど…
「来年は見上げる花見が出来たらいいですね」
やはり、すこし物足りない。
太子はおにぎりをゆっくり飲み込んだ。
「そうだな、もちろん2人でだ」
米粒を至る所に付けてそんなこという上司に思わず笑みがこぼれた。