もし明日世界が滅ぶなら



テーマ『もし明日世界が滅ぶなら』

(細道)


久々に芭蕉さんの家に赴き、句会に同席した。
句会と言っても名ばかりで、今日は近所の子供達を集めた俳句教室のようなものだった。
同席も子供に群がられ質問されまくり、楽しそうに笑う芭蕉さんを遠目に見ながらお菓子とお茶を頂いたぐらいだ。

「ねぇ曽良くん!明日世界が滅ぶとしたら何をする?」

だから芭蕉さんが突然こんな馬鹿らしい質問をした事に驚きはなかった。
…元から突然変な事を言いだす人だから、と言うのも大きいだろう。

「子供に聞かれたんですか」
「うん!
なかなか奥が深い質問だよね、私聞かれてからすぐ答えれなかったし」
「考える力も老化しているんですね」
「ひどい弟子だな君は!松尾ピンピンだよ脳も若々しいよ!
そういう曽良君ももしかしてすぐ答えれないんじゃない?」

「私より老化してるんじゃない?曽良君老化ー、老化弟子ー」と得意げな芭蕉さんの顔が腹立たしいので湯飲みを投げてやったら奇声を発してうずくまった。

「あ、あんまりどぅ…」

牧場へ売られて行く松尾芭蕉のような目がこちらへ向けられる。
これ以上質問に答えなければもっとうざくなりそうだ…仕方ない。



「答えてもいいですけど、人に聞く前に自分から言うのが礼儀じゃないですか?」
「あ、そうか、それもそうだよね…私は、」
「あ、いいです興味ないですから」
「どっちだよ!聞いてよ、せめて興味なくても聞いてよ!私必死に考えたんだから!」

芭蕉さんの必死ほどつまらないものはないと思うものだけれど。

「私はね…曽良君にチョップでも食らわしてぎゃふんと言わせる」「そうですか、ではお望みどおりに」
「ぎゃふん!」

芭蕉さんのお腹目がけて断罪チョップを入れた。芭蕉さんはまたうずくまり本日2度目の「あんまりどぅ」をつぶやいた。

「良かったですね芭蕉さん
これで明日世界が滅んでも安心です」
「良くないよ!全く逆じゃないか!」
「わかりましたよ
ぎゃふん
もう十分ですか?」
「そんな投げやりに棒読みに言わんといてー」

明日世界が滅ぶと言う日に大好きな俳句を詠むことでもなく、弟子への嫌がらせが思いつくあたりこの人の必死の考えの程度がわかる。



「私が言ったんだから曽良君も答えてよ!」
「僕はさっきみたいに芭蕉さんを返り討ちにしますよ」
「末恐ろしい弟子だな全く…」
















「あ、でもさ曽良君」

僕がまだ机の上にのこっている菓子に手を伸ばした時、何かを思いついたように芭蕉さんは声を発した。

「曽良君が私を返り討ちにするってことはさ」
「はい?」
「地球最後の日も曽良君は私といてくれるってこと?」
「……不本意ながらそうなるんじゃないですかね、不本意ながら」
「不本意って2回も言わなくても…
…でもそれなら例え最後の日返り討ちにされてもいいかもしれない」
「そんなに断罪されたいんですか?」
「違うだろっ、話からして違うじゃないか、
ちょっと曽良君後生だから構えんといてー」

確かに明日世界が滅んだとしても、最後のその時までこうやって芭蕉さんといるなら、退屈することはなさそうでいいかもしれない。


この日3度目のあんまりどぅが聞こえた。







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