水曜夜は出かけよう



(!社会人パロ)


カチャカチャカチャ

真剣な表情の彼の手の元でキーボードは鳴る。
体育会系だったのであろう彼のがっしりとした体つきにはデスクワークは似合わない。あくまで似合わないだけであって彼はとても優秀な部下だ。
…もしかしたらオレより仕事出来るかも…いやいやきっとそんなことはないよ!


「はぁー」

ため息をつきながら、オレも自分の仕事に向き直る。
昨日頑張って作った企画なんだけど、可愛い部下によって間違いを指摘されて作り直しだ。
勿論可愛い部下とは彼、鬼男くんだ。彼は上司であるはずのオレに容赦なく間違いは指摘するわ、仕事さぼろうもんなら怒るわでどっちが上司なのか分からないな、と部署でよく言われる。
まぁ、そういう仕事熱心な所がオレは気に入ってるんだけどね。





仕事に一段落つき、データを保存しながら、腕時計を見る。

(もう、こんな時間か)

職場を見渡すと、先程まではまだチラチラといた社員たちも消えていて、残っていたのはオレと鬼男くんだけだった。
思い返せば「お先に失礼します」とか何人か言っていたような気もする。それに気付かないほど仕事してたなんて自分でも驚きだ。普段はいかに仕事をしているように見えるか、ということに必死だと言うのに。

鬼男くんに指摘された物にはなんか真剣になっちゃうんだよなぁ「見返してやる!」みたいな。
そう自分で考えて苦笑する。
これじゃあ本当にどっちが上司なのかますます分からない。


(さて、と)

グイィっと伸びをしてからパソコンを閉める。
今日は本当に仕事頑張ったみたいで、伸びをした身体がパキポキと鳴る。労ってあげなければね。

時計はそろそろ定時を指そうとしてる。
目の前の部下はまだまだ真剣な面持ちでモニターを見ている。
オレは彼の後ろに忍び寄って、後から両手で彼の視界を遮断する。言うならば「だーれだ?」の状態だ。

「なん、ですか?」

突然の事に一瞬肩が震えたが、すぐに状況を理解したんであろう、彼は少し苛立ちを含んだ声でオレに尋ねる。

「オレとーっても疲れたから駅前のちょっとお高めの寿司屋に行きたいなぁ、なんて思ってるんだけど」
「行ったらいいんじゃないですか、1人で」
「一緒に行こうよ鬼男くん」
「まだ仕事してたいので」
「…仕事終わったら一緒に行ってくれる?」
「ええまぁ」

彼の発言ににやりとしながらオレは彼の目にあてていた手を退ける。

「さぁ、この時間とカレンダーを見てよ」

彼はパソコンのアンダーバーに表記された時間を見てから、卓上カレンダーを見る。
そして間もなくかすかな舌打ち音が聞こえた。

「仕事終わったら一緒に行くっていったよねー」

あげ足を取られたことに不機嫌そうな様子を隠しもせずに乱暴にパソコンを閉じる。
そして素早い動作で帰り支度を始めた。
オレはそれを見ながら自分の用意も済ませに席へ戻る。



「…連れてってくれるって事は」
「え?」
「勿論奢ってくれるんですよね」

ジャケットを羽織ながら彼は口角をあげてとんでもない事を言う。

「いやいや鬼男くん、ちょっとお高めなところなんだけど…」
「部下に奢るって言うのも上司の勤めじゃないんですかね…まぁそんなに上司って感じじゃないからいいんですけどねー」

嫌味ったらしい言い方なのに彼の顔はニコニコという表現が正しい爽やかな笑顔を浮かべている。

視線を彼から自分の鞄の中の財布へと移し唾を飲む。
上司としての威厳やプライドというものが、今月末の生活と闘っている…。



「…分かったよ奢ればいいんだろ!」

上司としての威厳を守れたはずなのに何かに負けた気がするのはなんでだろう。

…恐らくこんな時だけ部下面する彼にオレは負けたんだろう。






















水曜夜は出かけよう
(ごちになります!)



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ノー残業デーって素晴らしい
社会人パロの閻鬼
限りなく閻+鬼だけど閻鬼だと言いはる。



100330




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