幸せと言う人
もしも、の話
もし、もしも太子が摂政じゃなくて、僕が女だったならば。
そうすれば誰に咎められるでもなく愛し合えるのだろう。
そう僕が口にすれば太子はいつも苦笑する。
「それは困るな妹子
私が摂政じゃなくてお前が女だったらそれはもう私たちじゃないだろ、私は妹子が好きなんだ」
「わかってますよそんな事」
摂政の太子が太子であって、男の僕が僕である。何かひとつでも違えば太子は太子じゃなくて、僕は僕じゃない。
でも、もしもって言う例え話に縋りたくもなる。
僕らは互いをこんなにも好きなのに、こんなにも愛してるのに、
どうしてこんなに虚しい思いをしなければならないのだろうか。
「妹子…来い」
呼ばれて近くによると優しく抱き締められた。
いつも見る青が目の前に広がる。太子の腕に包まれて、僕は何も言葉を発せずにただ身を委ねていた。
「なぁ妹子」
頭上から優しい声が降る。
「私たちが愛し合うことがいけないのは確かで、どうしようもない事だ」
心に突き刺さるような事実。
どれだけ願っても変わらない。
「でも私は今幸せだ
お前と居れて、お前を愛せて」
僕は顔を上げて、太子と目を合わせた。
「僕も幸せです
アンタと居れて、アンタを愛せて」
2人で顔を見合わせて笑った。
「なら、それでいいんじゃないのか」
自分でそう言うくせに、太子は辛そうな笑い方をする。太子だってきっと本当はこの不条理に満足していない。
だからと言って嘆いてもどうしようもない、と僕に言い聞かせるように笑っているのだ。
分かっている。僕らはこのままではいられない。
こんなにも終わりを怖がる幸せを僕らは幸せと呼んでいいのだろうか。
もしも、の話
もし、もしも太子が摂政じゃなくて、僕が女だったならば。
僕らは出会うことなく愛すこともないのかもしれない。
それは虚しい愛を語る今とどちらが幸せなのだろう。
幸せと言う人
(本当は分かってるんだ)
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短い。恐ろしく短い
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