本当にほんとは




急いで息を切らして走って来たというのに耳に届いた信じがたい言葉にやるせない思いに襲われた。
馬鹿らしい。取り乱した自分が恥ずかしくなる。
いましがた「カレーが食べたいんじゃ!」と聞こえて来た部屋に挨拶もせず踏み入れる。

「お、妹子!」
「体調を崩したと聞いたんですが…?」

部屋の主は布団の中で上半身だけを起こした状態で僕の姿を見て片手をあげて笑いかけた。
横にいたっていた調子丸君は僕を見て会釈してから失礼しました、と退室していった。恐らく気を遣ってくれたのだろう。



「だからちゃんと寝てるだろう」
「病人はカレーなんか求めませんよ」
「気分が悪い時こそカレーだろうが!」

わけのわからない事を言う上司の調子は何時も通りだが、心なしかもとから良さそうでない肌色が更に悪く見えた。体調を崩した、と言うのは本当なのだろう。…ただ大事ではないみたいだけど。

「走って来て損しました」
「それほど私が心配だったんだな」
「即刻死んで下さい」
「ひどっ!体調悪い人間に死ねなんて人でなし!アホ芋!」

何時もの癖から少しこの場に不謹慎な言葉を吐いてしまった。僕の言葉を受け取った太子の表情が読み取れず、ひやりと背中に汗が伝う。
考えてもみれば、あの太子が大人しく布団に入って一応静かにしているのだ、もしかしたら本当に大きな病気なのかもしれない。本人をまじまじみた所で全く区別はつかない。

「妹子、」
「…っ、」

不意に真剣な表情の太子と目が合ってしまった。
反らせない、怖い、もしかしたらって、嫌な想像だけが巡る。





「…そんなに私の顔を見んといて!照れるじゃないか」
「キモい、うざい」

馬鹿らしい、この人はこんな人だった。何を今さら再確認しなければならないんだ…。















「思ったより元気そうですし、僕仕事に戻ります」

何度か会話を交わして、外で待っている調子丸君を呼ぶ。

「悪かったな、心配かけて」
「………」
「なんだよその顔は!私が謝ってるって言うのに!」
「いえ、太子がそんな言葉を言えるとは…」
「酷い、辛辣!女みたいな名前の癖に」
「蹴りあげますよ?」
「部下に殺される!」
「アンタは殺しても死なないだろうが!」

何時も通り暴言の吐き合いをしてたら、調子丸君が様子を伺いながら困惑していたので、礼だけ言って退出した。

「早く元気になって仕事して下さいね」
「仕事は嫌だ…」
「…………はい?」
「や、やるわい!やるったらやるわい!」
「じゃあお大事に」
「ああ、ありがとう」



ありがとう、だなんてまた何時も聞かないようなそんな言葉を背に歩むを進める。
部屋が少し遠くなった頃、不安になって一度振り返り部屋の中を伺うと、部屋の主は似合わない、弱々しい、見たことない顔をしていた。





















本当にほんとは
(教えてくれないけど、)
(良い方ではないんでしょう)




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太子命日に間に合わなかったものをリサイクル



100502







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