その時出来るなら
別に憎まれ口叩かれようが、何言われようが…いや傷つくんだけど、すぐ忘れる自信があるし、どうだっていいんだけど。
「妹子…?」
あんな言葉なんて今までなかった、そんな素振りも雰囲気だってなかった。だから妹子が勢いで吐き捨てて言った言葉に、咄嗟に何も反応出来なくて、顔を真っ赤にして背を向けて走る妹子をただ眺めることしか出来なかった。
それでも何を思うでもなく勝手に動き出した足はついに原っぱにうずくまる赤を見つけた。
今私の頭の中でゆっくりと、でも急激に確信が生まれている。
「妹子、だよな?」
「……なんでっ、追って来るんですか!?」
珍しく感情的な物言いや、顔を見なくても明らかに分かるその赤い耳だとか、
「だってお前、言い逃げはないだろう」
「忘れろっつったろ!」
「嫌だな、私は絶対忘れない」
「なら死ね!」
「酷っ」
強がっていつもみたいに振る舞っているけど、震えているその声も、どんどん小さく丸まって行く体も、
「……おかしいですよね」
「何がだ?」
「男が…男にこんな気持ち抱くだなんて、好き者として軽蔑しますよね」
恥ずかしいと早口になって話ちゃう所も、冷え込んでいるのに律儀にノースリーブジャージを着てくる所も、
「自分だけ言いたいこと言って私には何も言わせないつもり?」
「……」
「妹子、なぁ顔上げて」
「………っ、」
目に涙を浮かべながら、でも零さないように必死でこらえるその姿も、
あぁ全部全部、愛しい。
しゃがみこんで妹子を抱き締める。
驚きの表情が目の端で見えた。
「私だって妹子が好きなんだ」
"好きだ"って泣きそうな顔をしながら伝えた言葉に震えた心が、
後ろ姿を勝手に追ったこの体が、
私がお前を好きだって教えてくれた。
「だから、忘れろって言ったって忘れない」
ぽろぽろ、と落ちる雫を胸で受け止めて妹子の背中をあやすように叩いてやる。
あと、もう少しすればきっと顔を上げてくれるはず。
その時出来るなら
(せっかくなんだから、)
(笑顔だといいんだけど)
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妹子はカッとなって
「好きなんですよ!」とうっかり言ってしまったんだと思います。でもやっぱり忘れてくれって言って逃げる。
それによって太子はやっと自分の気持ちに気付くっていう感じですね。
うん、わかりずらい(笑)
100307