願うだけでは飛べぬように




子供の頃は空に向かい大きく手をあげ、飛ぶ鳥を指さし「あの鳥のように空を飛びたい」と願ったものだった。
もちろん今だって空への憧れはある。
でも人が空を飛ぶことなんて出来ない。
何百年、何千年たった世界では人が空を飛ぶことが可能になっているかもしれないけど、少なくとも僕の生きている間にはかないそうもない夢みたいだ。









ふわり、ふらりと危なげに舞い上がったと思いきや紙飛行機はあっけもなく地面に落ちた。
縁側の端から何の気なしに見ていたその墜落劇は今のが最初じゃないらしく、辺りにはそれの仲間が散らばっている。

「下手くそですね」
「うるさい!風が悪いんじゃーい」

そう言って太子はまた飛ばなそうな飛行機を作りだす。
僕は少しため息をつきながら近寄り、無造作に置いてある紙を一枚拝借する。
出来るだけ綺麗に折り目をつけて平らに、抵抗の少ないものにする。
出来上がった紙飛行機をスッと手から放つと真っ直ぐと空を泳ぐように遠く飛んで行きやがて地についた。

「…妹子お前、いつの間に魔術なんか使えるようになったんだ」
「使ってませんよ、アンタが不器用なだけだろうが」

太子の作った紙飛行機達より遥かに遠く飛んでいった僕のそれを、太子はアホらしい顔で見つめていた。

「妹子!私にもそれつくるでおま!」
「…はいはい」

もう一度紙を手に取り作成を始める。

「よくもまぁ、こんなに飛ばしましたね
どこからこんな紙、が……」

出来上がった紙飛行機を太子に手渡しながら、散らばっている紙に目をやる。
…仕事の紙だ。

「たい、」

僕が怒るよりも前に太子はまた一つ、先ほど僕の作った紙飛行機を飛ばした。
先ほどよりも空を泳ぎ遠く、遠く軽やかに飛んでいったそれは、静かに落ちていった。

「二つも作ったんだ、妹子も同罪だろ?」

けらけらと太子は笑う。
それはとても眩しく悪戯が成功した子供のようで、怒っていたことを一瞬忘れてしまいそうだった。

「、っ確かに気付かなかった僕も悪いですけど、…取ってきて下さいよ!」

蹴りだすように縁側から落とすと、太子は文句を言いながら渋々取りに向かった。





「あ、そう言えば」

一番遠くへ飛んだ紙飛行機まで取りにいくともう一度それをこちら側へと向けて飛ばしてきた。

「妹子なんでここに、用事か?」

僕の前には少し届かず途中でぽとり、と落ちていった紙飛行機を最後まで目で追った。
こっちからはあっちまで飛んだのに、あっちからはこっちへ届かないなんて、まるで僕らを表しているようだ、なんて考えながらそれを拾う。

「偶然ここを通っただけです」

「会いたかったから」なんて口にしないから、太子には僕の想いなんてちっとも届いてないんだろう。












願うだけでは飛べぬように
(想うだけでは伝わらない)



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太←妹
気持ち
太(→)←妹
だといい


100218







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