?臨 | ナノ


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時刻は20時をまわろうとしており、辺りは日が落ちてすっかり暗くなっていた。外の空気を吸おうとワゴンを出て、少し歩こうと車からさほど遠くない所の路地裏まで歩を進めたのが間違いだった。

「臨也……?」

薄暗い路地裏にうずくまっている男は顔が見えずとも誰なのか分かってしまう。
闇夜に溶け込む黒髪の頭。真っ黒なコートの色も手伝ってファーの白さが際立っている。紛れもない俺の同窓生である折原臨也は、俺の洩らした呟きに顔を上げた。

「あは、どたちぃん」

へらりと笑ったその顔は心なしか朱が混じっている。
様子がおかしい。
俺の知ってる折原臨也はこんな無垢な笑い方をしない。人を見下したような嫌な笑い方をするはずだ。何事かと戸惑っていると臨也が腰を上げた。よろよろとおぼつかない足取りで近付いてきたと思ったら、そのままふらりと痩躯が傾いた。

「っぶね、」

咄嗟に片手でその体を支えるとあまりの軽さにぎょっとする。なんだこいつ、ちゃんと飯食ってんのか?思わず目を丸くして見つめると、臨也がこちらを見て力の抜けた笑顔をつくった。

「へへ、こけちった」

ふわっとアルコールの匂いがした。これは……。

「……臨也、お前酔ってるな?」
「どたちんひさしぶりぃ元気してたぁ?」

人の話を聞いちゃいねぇ。妙に鼻にかかった甘ったるい声色が臨也の口から紡ぎ出される。
完全な酔っ払いだ。
こんな危なっかしい臨也をこのまま路地裏に放置しておく訳にもいかないので、ワゴンにおぶって連れていくことにした。
季節の移り変わりと共に冷たくなってきた夜風が俺たちの体を包む。ワゴンに乗り込むと俺は座席を倒して寝かせるスペースを作った。背中にのせていた臨也をシートに下ろしてやると、ありがとうと、とろんとした目付きでお礼を言われた。

「狩沢たちはぁ?」
「あいつらはさっき出掛けた」

ほんの30分前の出来事だ。
明日の早朝に新作のゲームソフトが発売されるらしく、大量買いするために前日の夜から店の前に並ぶと遊馬崎と意気込んでいた。何をそんなに必死になるのか知らないが、荷物持ちに任命された渡草が不憫で仕方がない。
でもまぁあいつらの世話を一日しなくていいということで今夜は自由だと思っていたのだが。まさか一番楽な役割であろうワゴンでお留守番役の俺が、こんな厄介者の世話を看ることになるとは。今日一番の深い溜め息をつき、ふと視線を上げると

「!?」

目の前に臨也の顔があった。
じっ、と緋色に染まった瞳が俺を真っ直ぐに射抜いて思わずたじろいだ。だがすぐにけろりと変わる表情、何がおかしいのか知らないが次はへらへらと笑いだした。

「どたちん、どたちん」
「分かったから…」

奇妙なあだ名を連呼し、いつも以上になついて抱き付いてくる子供を押しやる。
さぁ、これからどうしたものかと眉間に手をやったその時、猫のような仕草でするりと首に手を回されたかと思ったら視界が反転する。シートに思いっきり押し倒された。

「あついぃ」
「……もう11月だぞ」

言葉通り、多少火照っている臨也の体を腹上にのせたまま呆れるように突っ込む。太ももを擦り寄せてくる仕草は心なしか妙にエロい。
まずい、ペースにのせられる。今頃焦り始めたのは遅くて、臨也は弱い力で俺の腕を掴み自分の腰に持っていった。細くしなやかな腰を両手でわしづかむとどうしても行為を連想させた。

「いざや、」

上ずった声。
何を興奮してるんだ俺は。

「ドタチンの理性ってほんと強靭だよねぇ」

唇を尖らせながらそう言ったそいつの表情はどこか切なげに見えた。酔っている意識の中に本音のようなものがちらりと垣間見えた気がして驚いた。
誰の理性が強靭だって?

「理性なんかとっくに切れてんだよ」

怒りが沸いた。
変なところで鈍いこいつに。

「どたちん?」

急に低くなった俺の声に少し怯えるように身じろぎする臨也。俺は上半身を起こして臨也に向き合い、後頭部の黒髪を手で掴み少々乱暴にキスをした。

「……っ!?」

動揺しまくっているそいつを無視して口付けを深いものにしていくと、胸板をどんどんと叩かれた。目を開けてみると苦しそうな表情で涙を浮かばせている臨也。……まぁ、罪悪感を感じない訳がなく。

「ぷは、」

唇を放すと臨也は大きく息を吸った。何か言いたげだが、息が整わず深呼吸を繰り返すそいつを待ってやる。しばらくすると真っ赤な顔と真っ赤な瞳で強く睨まれ、

「……酔いが覚めた」

怒ったような声のトーンでそう言われた。唇を手の甲で抑える仕草は愛らしくて仕方がなく、こういうふとした可愛らしさを見せられるたびに俺がどんだけ必死で冷静を装っているのか、こいつは分かってないんだろうなと感じた。
で、本題。

「前言撤回しろよ。俺の理性はちっとも強靭なんかじゃない」

真正面から見据えると臨也の赤かった頬にさらに朱が加わる。酔っていた時とはまた違う意味の赤面なんだろう。
ほらはやく、と急かすとたっぷり躊躇ってから、渋々という言葉がぴったりなくらいに口を小さく開いた。

「……ドタチンの理性は、強靭なんかじゃありません」
「よし」

俺は、一字一句しっかりと復唱した臨也に合格判定を下すとそのまま細い体を持ち上げてシートの上に押し倒した。






(……なんでワゴン車?)
(昨晩の記憶ねぇのかよ!)









ドタチンの鉄壁の理性をぶち壊したくて書きなぐった文
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