.「しん、ら……いたい」
僕の下で臨也が呻いた。
あ、なんか言い方卑劣だった?変な誤解しないでくれよ。僕は今、臨也の治療をしているだけなんだから。
「文句言わないでよ…」
「…だから、って力強い、よ」
今回の臨也は静雄くんにガードレールをぶつけられたらしい。見事に背中に直撃したようで、鞭打ちを起こしていた。少し力を入れてマッサージするだけで彼はぎゃあぎゃあと喚いていたが苛めすぎたせいで今では低く呻くだけになっていた。
なんか、
「レイプしてるみたい」
「黙れよメガネ割るぞセクハラ医者」
相も変わらず悪態をつく臨也に苦笑して僕は包帯を手にとった。腰を掴んで一巻きして驚く。
「ひょろいね」
「新羅に言われたくないなあ」
いやいや、
「僕の方が背も高いし体重あるよ」
「………でも俺の方が運動神経ある」
「それ関係ないと思う」
切り捨てると臨也はそれっきり何も言わなくなった。
白い背中が彼の呼吸に合わせて小さく動いている。僕の手によって包帯が巻かれていくその様子は、なんていうかエロい。
僕にはセルティという人生を共にする相手がいるが、それでも時々思うことがある。
臨也は、エロい。
なんかこう、妙に色気があるというかなんというか。妖艶な雰囲気が漂うしなやかな背中をじっと見つめていると
変な気が起こりそうだ。
「新羅?」
え、
「あっ、え!?なに?」
やばいやばい。落ち着け僕。昔からの付き合いなんだから、彼の性格くらい嫌というほど把握しているだろう。
こいつは最悪な奴だ。
「……やらしい目」
「バレた?」
そして、人の感情をあっさりと読み取ったりする。鋭くて、近づくと怪我をしそうな…いや、飲み込まれてしまいそうな。
「そりゃあ、あんな熱烈な視線注がれたらねぇ」
いてて、と呟きながら臨也が包帯が巻き終わった上半身を起こしてこちらに向き合った。
薄っぺらい腹。
ごくりと喉が鳴る。
「いざや」
「……いいよ、支払い代わりに」
ん、と臨也が自分の唇に人差し指をあてた。
キスしろってこと?
「俺ねぇ、考えたんだ。新羅さ、運び屋に夢中じゃん?」
ここは素直に肯定した。臨也の吸い込まれるような瞳が目の前にある。
「そしたら新羅、一生キス出来ないよね」
確かにセルティには首がない。それもそうだね、と言う前に臨也が僕のネクタイを強引に引っ張った。咄嗟の判断で怪我人に倒れ込むのを避けようと、手をついた僕は偉いと思う。
気が付いたら臨也とキスをしていた。微かに触れるだけの軽い口付け。目を丸くしていると臨也の顔が離れて、同時に視界がぼやけた。
「ごちそうさま」
眼鏡を取られたらしい。
「俺でファーストキス卒業なんて貴重だよ?ってことで支払いしなくていいよね」
ふざけんな、と服を着てさっさと帰っていく彼を怒鳴らなかったあたり、僕は臨也に完全にほだされているらしかった。本当に魔性な奴だ。
「出会わなきゃ良かったなあ」
「今日の事運び屋に言うよ?」
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