.「ドタチン!」
一面真っ青で雲ひとつとない空の下で読書をすることのなんと心地よいことか。俺は比較的真面目な生徒だが、たまに良い天気だとそっと教室を抜け出し、こうして屋上で本を読んだりする。例によって今日も太陽の陽を浴びてまどろんでいた矢先。
「臨也……」
平和に過ごせるわずかな時間を台無しにしそうな人物が、本を読んでいた俺の前に現れた。
「おはよう!何読んでるの?」
おはようなんて時間じゃないが、午前中こいつの姿を見ていないのできっと今来たばっかなんだろう、相変わらずいい加減な奴だ。臨也は俺が手にしていたそれほど有名でもない作家のマイナーな推理小説を覗き込んできた。
「あ、これ知ってる。犯人はね、むぐっっ!?」
俺が昼休みにわたって地道に読んできた膨大な時間を無駄にするようなことを臨也がさらりと言おうとしたので、掌で咄嗟に口を覆った。ごめんごめん、と軽く謝る臨也を見て俺は手を離す。視線を文字の羅列に再び移すと臨也は俺の横に腰をおろし、肩にもたれかかってきた。
初夏のそよ風にのって臨也の髪の毛から良い匂いが漂う。
こいつなんか香水でもつけてんのか?と思ったが、無意識に嗅ぎ続けているうちに。
「シャンプーか」
思わず口にしてしまった言葉に臨也が俺を見た。
「あ、いや…」
変な誤解をされる前に弁解を試みるが、臨也はくすりと笑ってさらに体を擦り寄せてきた。
「…………」
無言で受け入れる俺。
聞き流して貰えたのは幸いだが(きっと臨也は何の事か分かっているだろう)、どうも俺はこいつを甘やかしすぎだと、誰かからも言われたような言葉にようやく自覚した。
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