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「あ、折原くん!」

昼休みが始まりがやがやと騒がしくなった教室に戻ると、眼鏡の青年が駆け寄ってきた。

「もーなんで4限サボったのさ」

名前は岸谷新羅。平たく言えば変人。

「…ちょっとね」
「僕には君くらいしか友達居ないって知ってるだろう?グループ活動とかこういう時つらいんだからさぁ」
「お前そんなの気にするタマじゃないだろう」

まあね、と軽く流して新羅は自分の席に着いた。俺もそれに倣って椅子に腰かける。前の席。おりはら、きしたに、と五十音に並べられたこの配置はもうずっと一学期の春から動かされていない。担任はそろそろ席替え実行した方がいいんじゃないかな。

「よりによってだよ!!」
「……何が?」
「よりによって理科の生物解剖の授業をサボるだなんて、生物部としてあるまじき行為だよ!?」

横向きに座り直して新羅の机に頬杖をつく。珍しく怒っている(迫力はない)新羅を冷めた目で見つめてどうでも良い風を装った。とにかくこの話題はあまりしたくなかったのだ。

「今日はフナの解剖をしたんだ」
「…ふぅん」
「同じグループの女の子がもう怖がって全然進まなくてさ」
「どうせお前が全部やってやったんだろ」
「勿論。あまりにも進まないもんだからさ」
「お前と同じ班員は楽でいいね」
「……あれ、もしかして僕皆に利用されてた?」

からりと笑う新羅に溜め息が漏れた。どこまでも変な奴だ。そう言うといつも決まってこいつは君にだけは言われたくないな、と返してくるけど、どう考えたって飛び散っている頭のネジの本数は新羅のが多いはずだ。というか多いに決まってる。

「ねぇ、なんであんなに怖がるのかなぁ?解剖する前から怖がっちゃってさあ。刃で柔らかい腹を裂いていく感覚も味わってないし血すらも見ていないのに」
「…まだ続くのその話」
「そしたらさ、彼女死んだ魚の目が怖いんだってさ」
「……………」
「分からなくも無いよね。生気失ってぼーっとしてて、どこを見てるか分からないような不気味な感じ。どうしようもなく無理なんだってさ」

一瞬にして口の中が渇いた気がした。新羅が無駄に事細かく表現するせいで脳裏に過りそうになったそれを無理矢理押し込める。

「折原くん?」
「あ、あぁ…俺ちょっとトイレ行ってくる」
「大丈夫かい?サボったのって、やっぱり体調不良のせいみたいね。汗、凄いよ」

反射的にこの場を去ろうとした俺の頬を新羅がするりと撫でた。こんなこと、普段しないくせに。早鐘のように胸を突き始めた心臓の音と、表情筋が強張るのをすぐに感じた。思わず新羅のにっこりと綺麗に細められた目を見つめ返してしまった。そこでようやく理解する。本当に、本当に本当に意地の悪い奴だと思った。

「気分転換に今日の部活はフィールドワークに行こう。魚釣りなんかどうかな」










「あんなのが怖いだなんて可愛いとこあるじゃないか臨也」
「…うるさい」



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