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「これは何?捨てていいの?」

本棚を整理してくれていた波江さんが一冊の本を掲げて尋ねてきたが、ぱっと見てよく分からなかったため手を伸ばすと、親切に渡してくれた。手渡された本を開いてみると細かい文字がびっしり。流し読みをしてみるとどうやら推理小説のようだ。でもこんなもの買った覚えはない。しかしこのブックカバーにはひどく見覚えがある。ぱらぱら捲っていくと、はらりと何かがページの隙間から滑り落ちた。

「…………あ」

床に落ちた渋い色の栞を見て、俺はようやくこの本の本当の持ち主を思い出した。

「波江さん、ちょっと俺出かけてくる!」













道路脇に見知ったワゴン車が停まっている。それに背をもたれて携帯をいじっている帽子をかぶった男が一人。

「ドタチン!」

まだ結構距離があるというのに目に入ったので走りながら思わず叫ぶと、ドタチンが顔を上げるのと同時にワゴン車の窓がすごい勢いで開いた。

「きゃーっ!イザイザ!なになに?夫に何の用!?」
「…狩沢は黙ってろ」

顔を出すなり一気に捲し立てた狩沢をドタチンがそう一喝すると、目を輝かせていた彼女は不満そうに口を尖らせながら、渋々と窓を閉めた。息を切らしながら向き合うと、溜め息を堪えた様子のドタチンが携帯をしまいながらどうした?と訊いてきた。

「……これ」

この分厚くて読み応えがありそうな本、渋い色の栞とブックカバー。これは、紛れもなく俺が高校生の時にドタチンから借りたものだった。それを差し出すとドタチンは困ったように苦笑いを溢した。

「やっとかよ」
「ごめん。忘れてた」

まぁいいけどよ、呟いてドタチンは受け取った本のページを捲った。

「…覚えてたなら言ってよ」
「あー…。まぁ読み終わってないなら無理に催促する必要ねぇかなって」
「もうとっくに読んだよ。多分借りた日の夜に」

確か貸してもらった当日に読み終えたはずだ。そう言うとドタチンは心底呆れた、という感じで本を閉じたがその表情に怒りは見られない。

「そんなんで内容覚えてんのかよ」

それどころか心なしか少し楽しそうに口元を緩めたように見えて、その表情は学生時代によく目にした覚えがあって懐かしくなった。

「覚えてるよ」

俺が答えるとドタチンはじっと見つめて口を開く。俺もそれにつられて無意識のうちに言葉を発していた。

「「犯人は、記憶喪失の主人公」」

同時に重なった声にどちらからともなく笑い出す。記憶力あるなお前、と笑われてドタチンこそ、と俺も返した。その途端、何故かワゴン車の中が騒がしくなり車体が揺れた気がした。何事かと思ったがドタチンは意に介さず話を続けた。

「あと4冊だな」
「……は」
「あと4冊お前に貸してる」

なんだと。
記憶を辿るために無言になると、ドタチンは懐かしむような声色でからかってきた。

「お前よく邪魔してきたもんな。俺が本読んでると」
「…そうだっけ」
「ああ。俺が読みかけでも貸せ貸せってうるさかっただろ」

そうだったかもしれない。真っ直ぐに本にしか注がれない視線に焦れた俺は、そんな子供じみた真似をしてよく妨害していた。思い出すと何だか急に恥ずかしくなって穴があったら入りたくなった。…あの頃は必死だったなぁ。

「延滞金くらい払ってもらいたいところだがな」
「え」
「冗談だ」
「………また、探してくる」

俯くと大きな掌が頭上に乗っけられて、髪を軽く掻き回された。こうやって撫でられるのも何年ぶりだろう。嬉しいのに何故か心臓が絞られるように切なくなった。本は、見つかっても…1冊ずつ返そう。それなら、4回きっかけが出来る。密かにそう企んでいると、再び車窓が開いた。

「もーっ!じれったいなぁ!そこはイザイザの服を引ん剥くくらいしないと!」
「だから狩沢は出てくんなっつってんだろ…」
「ひんむくて…」




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