?臨 | ナノ


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放課後、俺たち以外誰もいない図書室で俺は新羅を本棚に押し付けた。そのまま唇を奪ってみせると、新羅は然程驚いてない癖にびっくりした、と言った。

「なんだい?いきなり」
「…うっさい」

再度唇を寄せると今度は身をよじられてしまった。

「ちょっとちょっと…いくら親友だからってスキンシップ激しくない?」

親友。
そう、俺たちは親友だ。
新羅には恋人がいるし、俺は人間が好き。だから、これは単なる親友の戯れのはずである。最も、そう思っているのは新羅だけだけど。

「というか君、資料借りに来たんじゃないの?」
「…あれウソ」

ほんとは新羅と二人きりになりたかったが為の口実。
そう言うと溜め息が一つ落ちてきた。こういう嘘を吐くのはこれが初めてじゃないからついに呆れられたのかな、と不安からか心拍数が僅かに上がる。本棚についていた両手を新羅の背中に回して力を入れる。俺より少しだけ背の高いその身体に顔を押し付けると、ふわりと新羅の匂いがして心地よい。引き剥がそうとはしないしないその優しさにひどく泣きたくなった。

「ねぇ、用がないなら帰ろうか」

もしかしてそれは、

「…首無し、今日仕事終わるの早いの?」
「うん。夜の7時に帰ってくるから先に家にいたいんだ」

新羅が早く帰りたがる時は決まって恋人の帰りが早い時だ。それは分かりやすい故に真っ直ぐに俺を突き刺す。
叶わないし敵わない。

「新羅、やっぱ資料探すの手伝って」
「…え?ちょ、ちょっと」

ぐい、と新羅の手を引いて資料が置いてある本棚を目指す。もちろんこれもウソ。

「ちょっと、ウソじゃなかったの?」
「うん、やっぱ探す」

本の背を適当に指でなぞって探す振りをする。握った新羅の手の体温に意識が集中してしまって、題名なんか頭に入らない。下手したら鼓動が伝わってしまいそうで、怖くなって少し力を緩めた。

「どういうの探してんの?」
「んー…なんか医療的な…」
「えー?それなら僕の家にあるから貸すよ」
「じゃあ世界史」
「…………」

背中に射当たる沈黙と呆れ返ったような視線を感じながらも無視を続行していると、遂にお咎めの言葉が耳を貫く。

「臨也、ウソはいい加減にしてね。帰ろう?」

嫌だ。
帰らせたくない。
でも言えない。
だから俺は嘘に嘘を重ねて固めていく。

「…カラオケ行こ」
「え、今から?」
「うん」
「今もう4時だけど」

ぐ、と息がわずかに詰まった。

「……7時には着くように、する、から」
「それならいいけど…急になんだい?」

その問いには答えなかった。
机の上の鞄を引ったくって新羅を連れ出す。ああ、このままどこか知らない街まで駆け落ちしたい。でもそんなことしたらきっと、新羅はどんな手段を使ってでも恋人の待つ家まで戻るんだろうな。
新羅、俺は一秒でも長く君と居たい。
こうしてみると聞こえはいいけど、所詮は遠回しに一秒でも長く首無しと君を居させたくない、と言っているようなものだろう。聞こえが悪いどころじゃない。
今もこうして、固めに固めた嘘がぼろぼろ、塗装が剥がれるように落ちていく。
剥がれた先にある素直で純粋でそれでいて醜悪な俺の姿を、新羅は受け入れることはできないことくらい、想いを抱いたその瞬間から分かっていた。


中半端な恋なら溶かして
(とりあえず片思いソング歌って気を引く作戦から)




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