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「そういえば今日静雄の誕生日だね。臨也知ってた?」
「…へえ。知らなーい」

嘘だ。
学生の頃に交わした新羅との会話の中で、俺には毎年決まって嘘を吐く日があった。シズちゃんの誕生日なんて興味を持ってからすぐに調べ上げた。それでも祝福なんてする気も無かったし、俺より後に年をとるシズちゃんと来る日も来る日も懲りずに喧嘩した。







そうして今年も迎えた忌々しい日。携帯の画面を見つめて俺は、

「誕生日会って、何さ」

深く息を吐いた。シズちゃんは今夜、お誕生日会なる催し物に出席中らしい。どうせあの上司やら後輩が企画したんだろう。情報によると来良の子達や実の妹達までも参加しているときた。多くの人に囲まれて照れくさそうに笑うシズちゃんを想像して心底不愉快になった。

「…馬ッ鹿じゃないの」

この時期の外は寒い。昼間に降った雨が凍っているかもしれない。吐き捨てるように口をついて出たそれは、そんなことを考えつつも身支度をし始めている自分に向けた言葉でもあった。







誕生日会は未成年がいるため日付が変わる前にお開きになったらしい。俺は駅から出るとわざとシズちゃんの帰宅ルートを辿って歩いた。身体を貫く寒さにファーに口元を埋めながら見つけられるのを待つ。

「…なんで此処にいるんだァ?臨也くんよ?」

すると案の定、帰宅途中のシズちゃんに見つかった。顔がほんのり赤い。酒を飲まされたのだろう。手にはカラフルな紙袋が握られていて、俺は造った笑顔を危うく崩しそうになった。が、持ち前の演技力でなんとか踏み止まった。いつだったかシズちゃんが嫌いだと吐き捨てた笑みを貼り付けてやる。

「やあ、おかえりなさい。楽しかった?」
「……なんで手前が知ってる」
「やだな、俺の職業忘れたの?」

自分でも回りくどい言い方だと思う。こういう類いを毛嫌いしているシズちゃんはすぐに拳を握り締めたが、暫し獣じみた息を噛み殺してから肩の力を僅かに抜いた。

「……消えろ。今日は…そういう気分じゃねえ」

これにはちょっと目を丸くしてしまった。力をセーブできるようにまでなったんだ。完全とまではいかないがギリギリの所で堪えている様子のシズちゃんを見て、俺は無意識に眉を顰めていた。折角祝ってもらって上機嫌だった時に怒らせるんじゃねえ、なんて顔にモロに書いてある。残念だったね、そんな心地良い余韻に浸らせてたまるか。沸き立つ苛々を表に出さずに口角を持ち上げたまま俺は続けた。

「寿命には期待してるんだよ」

面倒臭そうに俺を見やったシズちゃんは何が言いたいんだ、とでもいうように顔をしかめた。気にせずに言葉を繋げていく。

「俺が結構本気で殺しにかかっても死なないシズちゃんでも、寿命でなら死んでくれるでしょ」

これは怒るかな、と様子を伺ったが、シズちゃんは笑えるくらいのしかめっ面を引っ提げていた。足りない脳みそでせっせと考えているのだろうか。やがて、

「訳分かんねぇ」

思考を投げ出したみたいに呟いたシズちゃんは、それから俺をじろりと見据えた。

「…言っとくけどな、少なくとも俺は手前を寿命に殺させねえぜ」

投げやりな言い方なのにそれは何故か凛としていて、俺の耳にじわりと馴染んだ。

「手前を殺すのは俺だ」

宣戦布告にも似た台詞を心地好く感じてしまった自分が憎かった。寿命なんかにやらせてたまるかよ、とぼやいたシズちゃんを何も言えないまま見つめるしかない。

「いつまでも害虫をのさばらせる訳にはいかねぇからな」

なんだか凄くムカつくようなことを言われているが、正直どうでもいいと思えるくらいには心中穏やかだった。苛立ちはどこへいったのか。しかも悔しいことにいつの間にか自然に笑えていた。

「……楽しみにしてるよ」

酒のせいで赤い顔をしたシズちゃんを見上げて俺は笑った。なかなか面白いことを言える程度には成長したらしい。挑戦的に言ったつもりが思いの外柔らかくなってしまった自分の声色が耳をついた。


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