Main静臨 | ナノ




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※パロ
 モブイザ表現有り、臨也くんがモブの性奴隷
 ちょっと暗め




折原臨也は社会的に存在していない。真っ暗で冷たい部屋の中で今日もせっせと男の上で腰を振る。揺れる度に首元につけられている鎖がじゃらじゃら音を立てた。

「っぐ、……ッふ、ん、ぁあああ!」

苦しい。涙が出る。早く、早くご主人様をイカせないと酷いお仕置きが待っている。それでも長時間虐げられた下半身には力が上手く入らない。見かねた主人に尻を力一杯叩かれて、急かされるどころか動きを止めてしまった。マズイ、と血の気が引いたときにはもう遅く、臨也の身体は吹き飛んでいた。派手に突っ込んだのは積まれたゴミの上で、臨也は少しの間目を閉じてみた。自分を飼っているこの男は決して裕福ではない。自分は小さい頃、高い値で買われた訳ではなく拾われたのだ。ここが断じて豪邸ではないのは、あまり外の世界を知らない臨也でも察していた。むしろ重苦しくて狭い、埃っぽい牢獄。鉄格子なんてないのに、臨也にはこの部屋が檻よりも頑丈に感じた。
一向に動こうとしない臨也に痺れを切らした男が再び掴みかかるまで、臨也はそんなことに思いを馳せていた。










ある寒い日のことだった。気温で季節はなんとなく分かるものの、今日が何月何日か考えることなんてとっくの昔に放棄していた。
がしゃん、と嫌に大きな金属音が響いて、臨也の全身がすくんだ。またギャンブルか何かで負けた主人が物に当たっているのか、と最初は思った。その「物」の中にはもちろん自分も含まれていて、八つ当たりの良い標的になるのをよく理解していた。主人でない男たちの相手をさせられたり、玩具をいれられたまま気絶するまで放置されたり、傷が残るくらい暴行されることも珍しくなかった。……今度は何をされるのだろう。
やけに騒がしい玄関の方に目を向けながら座り込んでいると、あまり聞く機会のない主人以外の声がしてきた。いつもの仲間にしては様子がおかしい。おずおずとびくつきながら臨也が腕の力だけで這って近付いてみると、ヒトを殴る嫌な音と共に目の前に主人が倒れ込んできた。

「………え、」

状況が飲み込めない。思考の停止により僅かに脳が反応を遅らせた。

「主人……?」

おそるおそる触れるが何の応答もない。呆気にとられている臨也の前にさらにもう一人、人物が立ちはだかった。

「あ゛ぁ?なんだァ…手前」

突然現れた金髪頭の男に鬼の形相を向けられて臨也は石の如く固まった。

「…コイツの仲間か?」

そう言って革靴のまま倒れた主人を踏みにじる男に対し、臨也は無意識にふるふると首を横に振ってしまっていた。

「…まぁいい」

舌打ちをしながら部屋をごそごそ探索し始めた男から目が離せない。しばらくそうして、何か一通り済んだ様子の男がもう一度臨也を睨み付けた。視線で射止められて思わず息を飲んだ臨也だったが、急に押し入ってきた謎の男に疑問をぶつけずにはいられなかった。

「…だれ」
「…コイツの借金を取り立てにきた。手前こそ、なんだその鎖」

そう言って、ずかずかと近寄ってきた男が臨也の首を掴んだ。

「…っ」

殴られる、と錯覚した臨也が条件反射で瞳をきつく瞑る。しかしバキリという音の後に臨也が見たのは、男の手のなかで粉々になった金属だった。その破片はどう考えても、今までどんなに引っ張っても攻撃を与えても傷一つ付かなかった鎖の首輪だった。

「…ペットかよ。胸糞悪ィな」

パラパラ、と破片が落ちる。臨也はパンク寸前の頭で必死に状況を処理する。眩しいほどの金色に目がくらむ。眼前のこの男は本当に人間なのだろうか。

「!?」

真剣に疑っていると、視界が反転した。担がれたのだと把握するのにかなりの時間を要した。

「ちょっと…!」
「おい、暴れるな。どうせ歩けないんだろ」

歩けないさ。歩けないけど、それが何だというのか。なぜ初対面の男に担がれなければならないのか。無関係なのだから放っておけばいい。そんなことをされたらこれは…明らかに脱走になってしまう。それとも、今度こそどこかへ売り飛ばされてしまうのか。あるいは用無しになったから始末されるのかもしれない。
部屋のドアが開かれる。あんなに重たかった扉がいとも簡単に。こんな所に閉じ込められていたのか、と遠ざかっていく牢屋を見つめながら呆然と頭を巡らせた。

「っい、た…!」

乱雑に投げ込まれたのは車の後頭部座席だった。見慣れない風景に臨也はキョロキョロと落ち着きを取り戻せない様子だ。そうこうしている間に男が運転席に座り、煙草をふかしながらハンドルを握った。走り出す車の中で、臨也はまだ自分の身に何が起きたのか捉えられていなかった。助かった?俺はあそこから、あいつから逃げたいと思っていたのだろうか。これは言うなれば脱獄。罪だ。そして待つのは罰。仕置き。今度こそ殺されー…

「手前、名前は」

底に沈めた意識を強引に引きずり出したのは運転手の声だった。

「………イザヤ」
「俺は平和島静雄」

イザヤ、と小さい頃からそう呼ばれていた。しかし主人はその名を滅多に呼ばない上に呼んだとしても大半に怒気が含まれていた。けれど臨也は主人の名前さえ知らなかった。
平和島静雄。だから他人の名前はひどく新鮮に感じた。

「いくつだ」
「…わからない。冬は15回くらい来た」

バックミラーに写る静雄の眉間が嫌そうに寄った。

「なんだその変な数え方」

本当に分からないのだ。臨也は自分が六歳の時まで人間であった自覚はある。それからはずっと人間らしい扱いを受けていなかった。折原臨也は死んだ。確かに主人はそう言った。

「俺を殺すの?」

小さな声でぽつりと溢れた臨也の呟きを、しっかりと聞き逃さなかった静雄の眉がますます不快そうにひそめられた。

「…いいか。手前は"助けられた"んだよ」

助けられた。臨也は喜んでいいのか分からなかったが、知っている言葉の中で頻繁に主人から強制されたものをよく考えて選んだ。これがおそらく正しい使い方だ。

「ありがとうございます…?」

余分な疑問符の付いてきたお礼だったが、静雄の機嫌はほんの少しだけ浮上した。バックミラー越しに臨也に目線をやって、頭をかきながら大きな溜め息を吐き出す。

「…どういたしまして」





それから臨也は流れる街並みを車窓から眺めていた。人が多く行き交う。賑やかで華やかで、あの部屋には無い色ばかりだった。光る装飾、大きな木。

「…クリスマスだ」

きらびやかな景色を眺めている内に、自然と臨也の口をついて出た。そんなもの、長い間意識したことなんてなかった。忘れていた、そんなイベントがあったこと。

「クリスマス、知ってるのか」
「…うん」
「今日は…12月25日だな」

静雄の吐き出す紫煙を目線で追いかけながら、臨也はなんだかひどく泣きたくなった。煙が目にしみた訳ではない。はりつめていたものの箍が外れてしまった、たったそれだけのことだった。

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