Main静臨 | ナノ




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最近、シズちゃんが仕事中にやって来る。自前にメールや電話で、その日はやんなきゃいけないことが山積みだ、と毎回忠告するのだが懲りずにやって来るのだ。取引などの外出する仕事だと言えば食い下がるのだが、自宅での書類整理だとかパソコンでの仕事だとかの際には決まって訪ねてくる。訪ねてきて、どかりと部屋のソファに腰掛けただ俺が机に向かって作業している姿を見つめる。背後から突き刺さる視線が痛くてたまらない。
仕事あるから、何も構ってあげられないよ?
先日、気まずさに堪えかねて俺がそう言うと
別にいい。
とだけ返ってきた。
一体何が目的なのか分からないが、まぁ邪魔してこないだけ良しとしよう。
そして今日も例外なくシズちゃんはやって来た。

「……………」
「……………」

室内には俺がキーボードを叩く音と、書類を捲る音だけが響いている。俺は次から次へと生まれていく情報をかき集めるのに精一杯で、更新するたびに切り替わっていく画面を食い入るように見つめていた。
うぅ、目がチカチカする…。

「……おい」
「……なに?」

俺が目をぱしぱしとせわしなく瞬かせていると、普段は滅多に声をかけてこないはずのシズちゃんが呼びかてきた。

「手前、今日コンタクトか?」
「うん…そうなんだけど」

仕事をする時はいつもは眼鏡だが、今日はたまたま新しいコンタクトをしてみた。そして案の定、いつもと違う感覚に早速目が疲れてきているのだが。
うん、慣れないことはするもんじゃないね。

「シズちゃん、そこの眼鏡取ってくんない?」
「!!!…おう!」

コンタクトレンズを外し、眼鏡はどこにしまったっけ?と周りを見渡したとき、ソファの横にあるキャビネットの棚のなかにしまったことをふと思い出した。シズちゃんに頼むと、なぜか彼は目を丸くしたあとに嬉しそうな返事をしてくれた。なんでだ?

「ほらよ」
「ありがと」

いそいそとこちらにやって来たシズちゃんは、まるでご褒美を貰いに来た大型犬のようで少しかわいい。パシられることがそんなに嬉しいのかな、ひょっとしてM?

「…………」
「……戻っていいよ?」
「……かけねぇのか」
「……かけるよ?」

なんだこの空気。
シズちゃんは俺に眼鏡を渡すと戻らずにそのまま目を輝かせながら俺を見つめた。何も悪いことはしていないのに、なぜかものすごく後ろめたい気分になってしまった俺は少し眼鏡をかけるのを躊躇った。
しばらく無言の攻防戦のようなものが続いたが、結局俺が根気負けしてやっと眼鏡のふちを耳にかけた。なんでこんな些細なことに時間かけてんの俺。

「……!!!」

途端に視界がクリアになる。この黒ブチ眼鏡は仕事の際にいつも使う愛用のものだ。うん、やっぱこれだね。
ふと顔を上げるとシズちゃんは目をキラキラさせていた。

「……臨也」
「な、なに?」

……ようすがおかしい。

「仕事、頑張れよ」

ポン、と肩に手を置いて励ましの言葉をくれたシズちゃんはウキウキとした足取りでソファに座ってこちらに向き直った。はやく仕事を続けろ、と言わんばかりに。

「………は?」

どういうこと?
俺が真相を知るのはまだ先のことである。


眼鏡臨也(というか臨也)が好きな静雄でした
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