.今日も今日とて見知らぬ集団からこれまた身に覚えのないことで恨まれ喧嘩を売られたのでとりあえず20秒で片付けてノミ蟲を殴りに教室に戻った。
もう下校時刻をとっくに過ぎており静まり返った廊下をどかどかと大股で歩く。校庭に呼び出されたと思ったら案の定喧嘩を売られるといういつもの定番パターンなので完璧にノミ蟲の仕業だと確定している。ふざけた真似してんじゃねぇと、何回怒鳴り付けても微塵も効果は見られないのだ。
今日という日はぶっ飛ばすことに決めた。まだアイツは教室に残っているはずだ。
廊下に響き渡る程の音を立てて教室の扉を横に開けると、やはりノミ蟲はそこにいた。
「オイこのクソノミ蟲がああああ!!」
怒声を上げても何も反応がないまま奴は机に突っ伏している。よく見ると俺の席に座っているようで腹がたって机の足を蹴飛ばした。何を呑気に寝てるんだこいつは。
「んん、なにさ……うるさいな…」
「黙れブッ飛ばしてやるから早く起きろ」
瞼を擦ってようやく顔を上げた臨也はどうやらマジ寝をしていたらしい。臨也は俺が殺気立たせているのに気付いてヘラリと笑った。
「お疲れさまぁ」
「うっっっっぜえ!!」
やはりこいつか。
変な奴らばっか手玉にして、送り込んでくるのもいい加減にしろよ。
「それにしても毎回無傷だよね」
人の話なんか聞いちゃいないコイツははまるで感心でもするかのように目を細めた。そして笑ったまま椅子から立ち上がると鞄を肩にかける。
「…つーかなんでまだ残ってるんだよ」
本能でまだ教室にいることは察せたが理由までは知らない。
臨也の何かいつもと違う柔らかな雰囲気に軽く戸惑ってしまったのを慌てて取り繕うが。
「…シズちゃんを待ってたの」
取り繕った冷静はすぐに無駄になる。本当にこいつは意味が分からない。嫌って憎しみあって喧嘩吹っ掛けて、そういう仲なのに時々こういう意味不明なことを口に出す。
正直、なんて反応したらいいか分からない。
「帰らないの…?」
何も言えないでいると、臨也は振り返って小さな声で尋ねてきた。……一緒に帰って欲しいのか?
一瞬だけ流れる沈黙。なんでそんな不安そうな顔してんだよ。いつもみたいにニヤニヤしてろよ……そっちのがムカつくが。なんで俺まで悲しくなってきてるのか全く分からなかった。
「……ッ行くぞ」
気付いたらもう行動していて俺の手には鞄がかけられていた。立ち止まっている臨也を抜かして教室を出る。しばらくして背後から、追い付こうと駆け足で寄ってくる足音が聞こえて。
かわいいとか思ったのは気の迷いである。
とりあえず、この想いは保留
(気づいてるくせに)
(そっちから言ってほしいなんて、お互い図々しい)
無自覚静→←臨
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