Main静臨 | ナノ




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今日は俺の仕事が休みだった。
加えて臨也も休みだった。じゃあどこか二人で出掛けるかと提案したが、臨也は「部屋でごろごろしたい」と言ってきた。まぁ手前といられれば何だっていいんだけどな、と伝えたら顔を真っ赤にしてうつむきやがったのでキスしてやった。




「シズちゃん、これは?」

そんなこんなで遠出をすることを諦めた俺たちは臨也のマンションで一日過ごすことになったのだが、何かそれだけでは退屈だと感じDVDをレンタルしに来ていた。

「だから、そういうのはやめろって」

先ほどから臨也がしつこく薦めてくるのは動物モノのDVD。俺がそういうのに弱いことを知ってのことだろう。うざい。断ると臨也は残念そうに眉を寄せ、棚に戻しに行った。こいつ、あまり見たいものがないらしい。……仕方ねぇな。
いつまでも悩んで折角の休日を潰しちまうのもアレだから、とりあえずなんだっていいだろうと考えた俺は適当に横の棚から一本手に取りレジに向かった。




ガシャーン

テレビの中でポルターガイストが起きている。誰も触っていないのにひとりでに皿が落ちて床の上で派手に割れた。
まぁ、いわゆるホラー映画を選んできてしまったようだ。別に好きなわけじゃねぇが、こんなショボい演出、怖がる奴がどこにいるんだよ。あー、失敗したなと溜め息を吐きながら横に視線を移すと。

「…………うぅぅ…」

俺の腕にしがみつきながらうめく臨也がいた。画面の中で何かアクションが起こるたびに臨也は体を跳ねさせている。
……なんだこいつ、もしかして怖がってんのか。普段、人間が好きとかほざいていかにも幽霊とか信じてなさそうなんだが。いたとしても見下し小馬鹿にするような性格の持ち主だったような気がしたぞ、俺の恋人は。意外な姿に目を奪われていると、俺の突き刺さるような視線に気付いた臨也が顔を上げた。

「……なに」
「怖ぇのか?」
「は、はあ?そんな訳ないじゃん、こんなB級映画相手に怯える人間がどこにいるのさ!しかもカメラワーク最悪!監督ほんとにプロなのって感じだよね、あ!もしかしてシズちゃんビビってる!?やっぱり、シズちゃんこういうの苦手そうだもんざまあ!!」

息継ぎ無しで、一気にそこまで捲し立てた時。

『キャアアアア!』

テレビから大音量の女のヒステリックな叫び声が響き、

「!?」

臨也がひときわ大きく体を跳ねさせた。真っ赤な瞳が見開かれて、よく見ると涙の膜が張っていた。怖いなら見なければ良いのに、食い入るように画面を見つめる臨也を見て、俺の理性がぶつりと切れた。

「………おい」
「な、なに?もしかしてギブアップ?まぁ、シズちゃんがそこまで言うなら勘弁してあげてもいいよ、こんな退屈な映画なんt」

うるさい口を封じて呆気にとられている臨也をフローリングに押し倒す。腕の中でもがかれる前に俺は片手でリモコンを掴みテレビの電源を消した。


ぶつん、とテレビが消える無機質な音は、俺の理性が切れる音とよく似ていた気がした。


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