警官×不良少年なにおぶんPART1

どうやら厄介な少年を拾ってしまったらしい。


「あのー、とりあえず名前を教えてくれんかの。」
「……。」


この少年を深夜の公園から連れて来て2時間は経過しようかという頃。取り調べは難航を極め、問題のこの不良少年は一貫して沈黙を貫いている。
 このやりとりを何度繰り返しただろう。俺は回想して、やめた。とにかくこの少年は呆れるほど口を堅く閉ざしたままなのだ。

公園で子供が喧嘩をしていると通報が入ったのは夜勤の俺が当番を先輩警官を交代して程ない頃であった。
時刻は既に子の刻。近隣の方々は通報された人も含め睡眠を妨害されて迷惑しているだろうから、一刻も早く事態の収拾に向かわなければならない。俺は黒いダウンをはおり、懐中電灯を手に年季の入った自転車に飛び乗った。


小さな田舎町の公園なのだから夜になれば頼りになるのは小さな電燈だけなので相当暗い。その暗闇に目を凝らすと、数人の体格の良さそうな少年たちが怒号や罵声をあげることなく荒く息をつきながら立っていた。大方争いは済んだのだろう。

君たち、何をしている!

社会に出るとともに直した言葉づかいで声を張ると、彼らは意外にも素直に散っていった。
正直腕力も体格にも自信があるとは言えないので、その予想外の行動に内心ほっとしたのもつかの間、少年たちが取り囲んでいた場所に小柄な少年が蹲っているではないか。

慌てて抱き起すと、その少年は死んだように動かなかった体をぱっと起こして俺の腕を乱暴に振り払った。


「おい、怪我しちょるけん、手当せんと…」
「……。」



少年は何も言わない。ただ俺を男にしては愛らしすぎる大きな瞳に込めた怒りで射るのみ。


ここに長居するのは少年のからだに負担がかかる。俺はため息をつき、暗闇に鮮烈に映える赤い髪が印象的なこの少年の手を無理に引いて、小さな交番へと連れて帰ったのだった。



そうして冒頭に戻るのだが、この少年本当に何もしゃべらない。
質問に答えない不良少年は多くみられるが、彼らでも帰せだのうざいだの言って反抗してくるものだ。しかしこの少年はまさに声を失った人魚姫のように口を閉じたままであり、ここへ連れて来て怪我の手当てを施しているときも痛々しく切れた唇をかみしめて一音も発さなかった。


「…あのな、一応名前と状況聞かんと放してやれんの。いい加減意地はらんでなんかしゃべりんしゃい。」

ばかでもあほでもなんでもいいから、と半ば自棄になりながら付け加えると、それまで閉ざされていた少年の唇が緩慢な動作で動き出した。
遂にしゃべるか、と身構えたが、その少年の様子に俺は自分が今まで冒していた失態に今更ながら気が付いた。

何事かを紡がんと頑張ってはいるがそれに対応しているのは唇だけ。
小さく開かれた口からは苦しげに詰まるような息の音が漏れるのみで、肝心の声になっていない。

「…お前、もしかして声でないん?」



時刻は既に丑の刻。俺とこの厄介な不良少年の奇妙な夜が過ぎていく。





つづく。





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