3話


 翌朝も、いつも通りの目覚めだった。

 すでに起きて用意をしている母に挨拶し、まだ寝たままの父と川の字になったきょうだいたちを起こさないように気をつけながら家を出る。

 いつも通りの朝だったが、気は何となく重い。

 今日が委員会決めがある日だ。今更のように、なぜ断らなかったのかと憂鬱になる。
 断って失望されようが、失敗して失望されようが、同じことなのに。

 昨日も家に帰ってからいろいろ考えようと思ったが、うるさい盛りのきょうだいがそれを許してはくれなかった。やはり、自分の落ち着ける空間は、朝の教室だけなのかもしれない。

 教室に着き、窓を開ける。しばらくして、私は窓を閉めた。

 とりあえず今日の授業の科目の予習を終わらせて時計を見る。7時を少し過ぎた時間だった。

 今日も彼は来るだろうか、と期待をしている自分に少し驚く。思いの外、昨日の岸田君との時間が楽しかったのかもしれない。

 昨日乱雑に書いたルーズリーフを取り出す。こんな風に上手く行くファンタジーを、私は求めて良いのだろうか。

 カラカラと扉の音がして、私ははっとそちらを見た。そこにいたのは担任の三瀬先生だった。

「・・・・・・金田か。早いな。予習でもしてるのか?」

 まあ、と私は口ごもる。

「皆お前の様な勉強家なら、私も苦労しないのにな」

 別に勉強していたわけじゃありません。それに、勉強ができても、人前で話せなかったら同じです。
 担任の先生なのに、何も言えない。怖いわけじゃないのに、威圧感が拭えない。

 担任は何も言わず、プリントを整理した後、「じゃあまたとで。委員会決めよろしくな」と言ってて出て行った。

「・・・・・・ふー」

 別に先生は威圧しているわけじゃない。私が勝手に苦手意識を持っているだけ。だけど、彼が去ると、不思議と開放された気になるのは担任に失礼だろうか。

「おはよーメガネダさん。今日も早いねー」

 私はどきりとして振り返った。

「おはよう、岸田くん。今日も朝練?」

 まぁね、と岸田君は笑った。ついでにあくびをする。

「今日から授業だよなー。かったりぃ」

 岸田君は私の机のルーズリーフをまたも掠め取った。

 あれから少しも進んでない。雑な字で書かれたメモ。昨日岸田君に褒めてもらったのに、何もできていなくて恥ずかしくなる。

「考えたんだけどさ、うちのクラスのメンバー的に、挙手って難しそーじゃない?」

 ルーズリーフを見たまま、岸田君は言った。

「結構はっきり言うタイプが多いクラスだけど、手を挙げるとかかったるいーって空気になりそうなんだよな」

「でも、みんなやりたい委員会考えてきているんじゃないのかな」

「みんながみんな真面目クンじゃないしな。女子とか、友ダチと一緒だったらなんでもいいーってトコ、ない?」

「・・・・・・確かに」

 もし友だちと委員をきめていても、片方がなれなかったら決まっていた方も降りるなんてこと、よくある。友だちと一緒じゃないと気が済まない人も、確かにいる。

「じゃあ、友だちと話し合う時間を作るとか?」

「それ良いじゃん。そしたら参加率増すかもよ」

 私は慌てて岸田君からルーズリーフを受け取り、書き込んだ。

「でもそしたら、多分楽な委員に集中するよなー」

「委員の主な仕事を簡単に説明しておくとか?」

「それ、始めにやっておくと良いかも。『環境委員』とか、何すんだよって感じだし」

「うん、確かに。昨日先生にもらったプリントには、『花の水やりや花壇の掃除、生き物の世話』ってあるよ」

「へぇー。意外と知らないんだなこういうの」

 岸田君は感心したように笑った。でも、感心したのは私だ。出口が見えた気がした。一人じゃ見えなかった世界が、不思議と開けた気分。

 私はルーズリーフに書き込み、頭の中で流れを組み立てる。岸田君は、満足したように大きく欠伸をし、自分の席に座って机に突っ伏した。

「ありがとうね、岸田君」

 言った直後に、クラスメイトが入って来た。それ以上は何となく言えないまま、私はルーズリーフを見つめ続けるままだった。




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