三月は今日も散歩中
SideA
†White Rabbit's Turn
「三月ーぅ!」
「うっわまた来た!!」
ハローハロー。三月は今日も散歩中。劇的に必然に、私は草むらから飛び出した。
さすがは私の三月。運動神経世界一。私を見るとすぐに反対方向へ走り出す。私にプレゼントを取りに行ったのかな?
「そう思っていられるあんたの頭が羨ましいよ、白兎」
振り向くとそこには、フードを目深まで被ったチェシャ猫。
「まったく、お前のせいで三月を見逃したではないか」
「だから、初めから逃げられてることに早く気付けって」
チェシャはぶつぶつと何かを言っているが、よく聞こえなかった。どうせ「今日も道端で食った鼠が美味かった」とでも言っているんだろう。
「ん、あの方角は『かろかろの路』へ抜ける気だな。こうしちゃおれん、三月にまだ愛を伝えておらん!」
「って、お前あいつの散歩道をどんだけ知ってんだよ」
チェシャの言葉に耳を貸さず、私は傍にある根の大きな木に手をかけた。
「ツリー・サン公爵! 今日も元気に『かろかろの路』まで頼むっ!」
私が言うと、木(ツリー・サン公爵は我が一族の古くからの友人である。今でははたくさんの子孫がこの世界中にいるのだ)は根を大きく持ち上げた。私はその根の下に潜り込む。
これは他の皆には出来ない、私の一族だけの能力である。これを、みんなは「白兎の抜け穴」と呼んでいる。
私はその中に入り、短い回廊を走った。すぐに光の下に出ると、そこは『かろかろの路』の傍の木の根の下。私はこうして『不思議の世界』を縦横無人に移動する。
路の端を見ると、遠くに見える三月がまさにこちらに来ようとしているところだった。
何という運命だろう!
私が三月に走りかけようとすると、三月が上をぎょっとした顔で見たまま立ち止まる。
なんだろうと私も三月の上方をみると・・・・・・
「こらチェシャ猫! 三月の散歩を邪魔するでない!」
私は遠くから叫んだが、果たして聞こえているのやら。
チェシャは尻尾を揺らしながら三月の上方の木で寝転んでいた。こやつも空間移動能力がある。神出鬼没のあなどれん奴よ。
「三月、お前謎掛けは好きか? 『この先にお前の苦手なものがある、なーんだ?』」
チェシャはニヤニヤ笑いながら、三月に問い掛けた。
三月はしばし考え、はっとした顔をつくるとすぐに、
「サンキュ、チェシャ猫!」
と言いながら、今度は道から外れ、道なき道を進み出した。
苦虫を噛み殺したような横顔に、私はア然とする。
チェシャは、今度はいつの間にか私の真上の木にいた。
「あーあ、相当嫌われてんなー」
たしかにそのようだ。
「私の背後の先にある、我が一族の栽培するニンジン畑・・・・・・三月はニンジンが苦手らしいが、あんな顔をされると少なからず寂しいぞ」
私は、自分の姿に気付かれなかったことにも少ししょげて、泣きそうになった。
「オレはあんたの思考がめでたすぎて寂しいよ」
呆れ顔でチェシャが言う。
と、私はこうしてはいられない!
「三月のあの方向、つぎは『ぬやぬや小道』を通るはずだ! こうしてはおれん、いざっ近道っ」
私は今度はツリースター男爵の親戚にあたる木に抜け穴を頼んだ。
「白兎、お前あんまり適当に抜け穴掘ってると墓穴掘るぞ?・・・・・・って、いないし」
私はぬやぬや小道へ向かうべく、走った。しかし、おや、ここは『ぬやぬや小道』ではないな。目の前に見知らぬ少女がいる。ここは−−
†to Leavesさん
相互リンク記念にLeavesさんに差し上げた小説です。
リクエストが「白兎の三月ストーカー話を! チェシャを絡ませつつ・・・・・・」とのことでしたので、白兎視点で書かせていただきました。
ちなみに「帽子屋の狂い言」に続きというか、猫さん視点が・・・・・・。よかったらそちらもご覧ください。
では、Leavesさん、リクエスト&相互リンクありがとうございました!
今後ともよろしくお願いしますー! †RuriCan(Akira)
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