Cat brother


[Cat brother]
「なんかこう…こういう格好すると血が騒ぐというか…」


うずうずと身体を小刻みに揺らしながら目を輝かすアリス。獣の耳がアリスの動きに合わせて可愛らしく揺れる。
今日の格好はとても奇抜なものだった。


「へえ、そんな血あったの」


隣りに立つチェシャ猫は相変わらず奇抜な格好。しかしいつもの服ではなかった。
彼にも獣の耳が生えており、ぴくりと揺れた。


「違う違う。格好から入るタイプだからなんとなく、な。にしても、なんでねこがモチーフ?」


朝いつも通りに起床し、自分の仕事をしようとキッチンに向ったアリスは不思議な光景に出会った。既に二度目の睡眠に入っているはずの眠りネズミが嬉しそうな顔をして立っていたのだ。
珍しいと思いつつ軽く挨拶し、自分の朝食を準備しようとキッチンに立つと眠りネズミに背後から抱き付かれる。びっくりしながらも眠りネズミの話を聞くとどうやら今夜は仮装パーティをするからサイズを測ってるのだという。
アリスの着ている服は眠りネズミが手配しているので今更測り直しても、と思いつつもされるがままなアリス。
暫くして眠りネズミが離れた。先程より楽しそうな顔をしていた。そうして訳の解らないまま眠りネズミは去っていった。

去り際に後で衣装を取りに来るように言われたので朝食を食べたあと本を少し読み、眠りネズミの部屋もといクローゼットへと足を運んだ。
途中、チェシャ猫に会い、話をすると彼も眠りネズミに同じ様なことをされ、呼び出されたという。そうして二人で眠りネズミの元を訪れた。


「二人とも、お待たせ。さっこれで今日のパーティはばっちりだろ!」


入って早々一人ひとりに紙袋が手渡された。中を軽く覗くと何やら布が少ない。不思議に思いつつも、眠りネズミが完成を確かめたいというのでアリスは簡易試着室で着替えた。
そして紙袋を開けた瞬間、アリスは呆然とした。




「……ネムリ…、何なんだよこれぇっ!」


カーテンが開け放たれ、出てきた姿にチェシャ猫は驚いた。
どう考えてもキツめのピンクに白のボーダーのいわゆるチェシャ猫柄、それに鮮やかなオレンジ色のズボン、黒の編み上げロングブーツ。それらを完璧に着こなすアリス。見事に似合っていた。

眠りネズミは満足気にうんうんと頷き一人で納得していた。その姿を隣りで見ていたチェシャ猫はため息を洩らす。自分も同じ様なことになるだろうと解っていたから。


「さて、お次はチェシャだね」

「猫はどんなんなんだ、ネムリ」

「それは見てのお楽しみだろーっ」


案の定遠回しに催促され渋々試着室に入るチェシャ猫。どうやら先程確認したのか大体の想像はついていたようだった。
唖然としながらもここまで来たからには着ない訳にもいかない。しかしながら彼にも羞恥心は残っていた。


「…おい、これボタンついてないのか?」


服の構造に手惑いながらも着て、外へ出てきた。
右目を黒い眼帯で隠し、アリスと同じ柄のロング丈で背中に大きいジャック・オー・ランタンが織られてるニットを羽織り、下はアリスとだいたい同じ格好。パッと見はアリスと似通っていた。そして彼も見事に着こなしていた。
出てきたチェシャ猫に右手の親指を立てて満足そうに目を輝かせていた。


「うお、やっぱ何着ても似合うなあ…」

「…フ、…惚れた?」

「ハッ、ないね」


アリスはチェシャ猫に駆け寄り見上げる。背の高いチェシャ猫は何を着ても基本似合っていた。今回の衣装もそうだ。
いつも着てる服は色使いもそうだが、構造が奇抜で第一印象はとてもいい人には見えないだろう。だが今回、露出が激しいもののそこを抜けば中々なものである。
さっぱりとした性格の二人なので会話も少ない。眠りネズミが満足そうにしていたので立ち去ろうと二人は踵を返した。


「あ、猫、お前耳出せないのか?」

「耳…?」

「猫耳だよ。猫だろ、お前」

「耳……ねぇ」

「ついでにアリスにもつけてやれないか?今回のテーマが化け猫兄弟なんだよ」


踵を返した途端、思い出したように眠りネズミが話し始める。内容を聞くにつれてチェシャ猫の標準が曇っていった。何か嫌な思い出があるようだった。


「へっ?猫耳…?」

「そうっ!猫耳!」


爛々とした目でアリスに近寄る眠りネズミ。流石に身の危険を感じたのか後退りし始めるアリス。チェシャ猫はやる気のない瞳をしていた。


「………はあ…、やる気は起きないけど、とりあえず出せないのか?」



眠りネズミの瞳の輝きに負けて渋々承諾するアリス。目を少し後ろにいたチェシャ猫へ向けて問う。そんなアリスを見てチェシャ猫はあからさまに嫌な顔をした。
普段あまり感情を表に出さないチェシャ猫がここまで嫌悪を表すのだから相当嫌いなのだろう。アリスは思わず苦笑いをした。


「今日だけ、なっ?」

「……………ムコウにいたときに散々つけたから付けたくないんだけどね」


渋ったてカチューシャみたいなのでも持ってこられても堪んないからね、と大きなため息を一つ零し、指を鳴らした。
パチンッという軽い音ともに頭に違和感を覚えるアリス。なんとなくむず痒い。
目の前のチェシャ猫を見上げれば彼の髪色と同じの耳が生えていた。そしてゆらゆらとゆっくり揺れる長いしっぽ。


「…うわあ、ホントついた……」

「バランス崩すからな、ちょっと歩いて慣れた方がいい」


頭を触って己の耳を確かめるアリス。ふさふさと柔らかかったのかゆらり、としっぽも揺れた。


「オッケー!完璧!!」


よっぽど満足がいったのか、興奮気味の眠りネズミ。そして次の仕事があるからと二人をぐいぐい押して部屋から追い出した。
そして冒頭に戻る。

行く先もやることもなくなってしまった二人はなんとなくダイニングへと足を運んだ。急いでも仕方ないので足取りはゆっくりだった。


「特別な日にやるの?仮装ぱーちー」

「いや?こんなのは初めてだな。いつもみたいなお茶会しかしてない」

「ふーん」


二人の会話はあまり長くない。喋る必要がないのと、大体考えてることが同じだから。チェシャ猫はアリスとの雰囲気に安らぎを感じ、アリスもまたそう感じていた。
だから沈黙は心地のいいものだった。証拠にアリスのしっぽがピンッと真っ直ぐ上を向いている。
それを見ていたチェシャ猫は小さく笑った。


「着いちゃった…。というか準備とかは?」

「とりあえず入ってみればわかるさ」


とても大きな扉を前に立ち止まる。気付けば陽はすっかり落ちていた。
チェシャ猫が扉に手をかけ開く。ギギギッと大きな音をたてながらゆっくりと開いた。


「アリスー!」

「猫も一緒だよ!」


「珍しい組合せだなあ、おい」

「とても似合ってますね、アリス」

「ダージリンでいいかー?」


ダイニングはとても賑やかで開けた途端、声が溢れ出す。双子も三月うさぎも帽子屋も眠りネズミも、皆集まり仮装をしていて、雰囲気までもが賑やかだった。
いつの間に用意したのかダイニングその物も飾り付けてあり、楽しげであった。
アリスは辺りを見回し、感動していた。感情が顔にも耳やしっぽにも出ていて、チェシャ猫はまたも笑みを零す。この辺りはアリスも年相応に見えて面白いのだ。


「…さ、お茶会の始まりだ」


チェシャ猫が一本前出て手を差し出す。その優雅な物腰にアリスは感心し、一人感動しながらその手を取った。
歩み出せば皆が寄ってくる。楽しく、賑やかなパーティの幕開けである。
夜はまだまだ長い。






fin.






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阿沙紀さん、お帰りなさいいいぃぃ!!!(笑)何度も言っててうざがられそうですが、嬉しくって嬉しくって☆
文章とイラスト一緒にしようと思ったのですが、わかりやすくこちらに置かせていただきました。イラストのハロウィンと対になってます。
なんたって、眠りの姐さんグッジョブですよ。アリスに猫耳、ありがとうございます!(笑)最終回を向かえられましたが、またアリス達に会えてよかったです! ステキなハロウィンプレゼントありがとうございました!!




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