帽子屋の一日
彼の一日は身支度を整える事から始まります。
日が高く昇ってから起きて、身支度を整えます。愛用のシルクハットに、愛用のスーツ。今日のシャツの色はどうやら藤色の様です。
シャツの色はその日その日の気分で決まるそうです。クローゼットの中には沢山のシャツと少しのスーツ。
彼はやっぱり変わってます。
身支度を整え終わったら朝の一杯。
部屋にあるティーセットで本格的な淹れ始めます。今日はアッサムな気分なのでしょう、鼻歌を歌いながら上機嫌で準備をしています。
淹れ終わればサイドテーブルにつき、ゆったりと朝の一時が始まります。
そして彼の手元には一冊の本。「偉大な依存」と書かれていました。
やっぱり変わっています。
一服が終わり、今度手にしたのはモップ。
実は彼、部屋はいつもキレイじゃないといけないタイプなのです。
いそいそ、と部屋の床を拭き始めました。
モップを掛け終わり、辺りを見渡せばピカピカ。イキイキとした顔して帽子屋は満足そうでした。
そうやって部屋でやることを一通りやると、場所を移動します。みんなが居ると思われる大広間の扉を開ければお茶会の始まりです。
「…三月、ネムリ好きなのわかるけど、お前居るとめちゃくちゃになるから帰れよ…」
「あぁん?何でめちゃくちゃになんだよ、意味わかんね」
「いや……、ほらアイツ暴れるだろ…?お前の顔見ると…」
「んなことねぇだろうが。あれは舞ってるんだろ?ガキの目じゃわからねぇだろうがな」
「(………駄目だコイツ…!!)
大広間の扉を開ければ飛び込んできた会話。長いテーブルには様々な食器に食べ物たち。そしてアリスと三月うさぎが席に着いてました。
自信満々といった顔の三月うさぎ。それに呆れ果てるアリス。二人のやりとりの答えは一目瞭然でした。
ゆっくりと扉を閉めるとアリスが帽子屋の姿に気が付きます。
立ち上がり寄ってきました。
「おはよう、帽子屋」
「ああ、おはよう、アリス」
にっこりと笑って挨拶を交わす二人。心なしかアリスの顔が疲れているようでした。
「今ネムリが夕食とお茶会の準備してる」
「今日は手伝わないんだね」
「…ほら、バカがいるし」
そう言って困った様に笑うアリス。
その表情を見た帽子屋はアリスの肩を押しながらゆっくりとテーブルに向かいました。
ネムリが作るものはなんでも美味しいとこの国の住人は口を揃えて言います。
その噂通り、見栄えもよく栄養バランスもいい、そして尚且つ美味しい。その料理にアリスは感激しました。
そんな料理が毎回、このお茶会に出てきます。
今夜もほら。
「アリスー、ちょっと手伝えるかー?」
キッチンからひょこっ、と顔を覗かせ声をかけるネムリ。
アリスは大慌てでネムリのいるキッチンに走っていきました。アリスを慌てさせた当の本人はのんびりと腰かけていました。
「…おはよう、三月」
「おう、紳士さん。随分おせぇ『おはよう』だな」
声をかければケラケラとバカにした様に笑う三月うさぎ。
今は夕方。もう『おはよう』というには遅い時間でした。三月うさぎの発言は珍しくまともでした。
三月うさぎの近くに歩み寄りながら話し続けます。
「私は今起きたばかりだからね」
「そーかそーか」
「君は何時に起きたんだい?」
「俺か?俺は寝れねぇんだよ」
「何故だい?」
「何でって、アソコがギンギ「だぁぁぁぁぁぁぁぁああああああッ!!!!」
三月うさぎの言葉をかき消す様にアリスの叫び声が響きます。
声の方に目を向けば、紅茶セットが乗ったトレーを持って肩で息をしながらドスドスと歩み寄ってくるアリス。食器に気をつかいながらテーブルに置き、凄い形相で三月うさぎに掴み掛かりました。
「お前はどうしてそういう放送禁止用語しか口に出せねぇんだよッ!!」
ぐわんぐわんと前後に揺さぶりながら叫ぶアリス。突然のことすぎて三月うさぎはされるがまま。
スタミナ切れで揺さぶりをやめるアリス。ハァハァ、と肩で息をしています。
そして揺さぶられてた本人は呆れたように言いました。
「ったくよ、んなもんガキじゃねぇんだから恥ずかしがんなってんだよ」
「違うわボケーッ!!!!」
アリスの配慮にも気付かず、自分のバカっぷりを披露する三月うさぎ。そうこうしている間に、支度を終えたネムリがやってきました。
「………………………」
「あー……」
「……ネムリ…」
どんがらがっしゃん。
三月うさぎの顔を見た瞬間、ネムリが暴れ始めました。
お茶会は始まる前からめちゃくちゃになりました。
暴れるネムリ。
止めるアリス。
惚ける三月うさぎ。
口元に小さく笑みを浮かべる帽子屋。
いつの間にかやってきた双子。
珍しく屋敷にやってきたチェシャ猫。
今夜のお茶会も楽しくなりそうです。
![](//static.nanos.jp/upload/w/wrlabyrinth/mtr/0/0/20130428085447.gif)
[ 11/30 ]